川口:このおふたりを初め、東宝の人は、どなたも「映画が好き」なことが痛いくらい伝わってくる。しかも、我々は3年に1回なのに、彼らは毎月300館を相手に新作を送り込んでいる。だから、言うことにいちいち「なるほど」と思う。「星を追う子ども」で痛感したわけですが、3年も空いたら、正直いって市場の温度感がもうわからない。しかも、制作が始まったら、もうアップデートが出来ない。

あっ、そうか! アニメは制作期間が長いんですね。

川口:絵コンテが上がってから作画が1年。いや、仕上がる手前で書き始めているから1年半かかります。その間は、「これでいいのだ」と信じていくしかない。そこに、300館を相手にしている東宝の方と組めたことで、大きな安心感がありました。映画への愛があって「もっとこうしましょう!」と提案してくれるし、こちらも「川村元気がそう言うなら大丈夫だ」と、信じて進めた。これは大きかったですよ。

もう聞いちゃいますけど、具体的には、いつ頃から、どんなふうに「君の名は。」は始まったんでしょうか。

川口:新海誠の映画は、彼の中に降ってきて、魂から沸き上がったものを、企画書にして持ってくるところから始まります。「秒速」の時は3行プロットが10個でしたね。「君の名は。」は、2014の7月でした。「言の葉の庭」公開後、小説を書いて、ワールドツアーで2013年が終わり、翌年、企画書が来た。カラーイラストと説明が入った8ページくらいの。

 読んですぐ「東宝を呼ぼう!」となって、プリントアウトを持ち寄って、CWFで打ち合わせが始まったんですよね。

 申し上げたとおり、いつもは宣伝・配給も自分が関わるのですが、今回、そちらは東宝にすべてを託して、作品として完成させる「制作会社の社長」としての役割に徹したんです。

物量もやり方もこれまでと違った

制作会社の社長として、どんなことを考えていたんですか。

川口:いつもと違って、宣伝、配給を気にする必要がない。その代わり、制作陣にスター級の原画マンが、超大物を含め多数いる。新海と気心の知れたCWFのスタッフだけじゃないわけで、俺は絵のことが分かるわけでもないし、勝手が違います。なので、なにもできないから、皆さんに迷惑を掛けながら見守る感じでした。

従来の「新海組」のやり方とは違う方々と組まれた。それは緊張もあったでしょうね。

川口:しかも、尺もある。「君の名は。」の物量はいつもの3倍です。最後の半年は、だれか1人でも倒れたら制作スケジュールが守れない、もうぎりぎりの戦いでした。メインの方がインフルエンザに罹ったり、本当にいろいろありました。俺、神社に毎日お参りに行っていましたね。今回の破格のヒットを支えた原画スタッフが納得できて、新海誠のやりたいことができる制作のやり方は、今後も一生懸命考えていかねばなりません。

 ってとこで、このくらいでいいでしょうか。

ありがとうございました。あ、最後に。これだけの興収を上げ、制作費も回収されて、関わられた方にボーナスも出されて、ご自身はどうされるんですか。ぶっちゃけ、使い道は。

川口:いや、ほんとに聞きたいことを聞きますね(笑)。

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