川口:僕自身は、作り手にとってのおとっつぁんのような役割がいい。会社を全寮制にしたいくらいです(笑)。全家族制。さっきも言いましたが、制作スタッフの気持ちがしっかりまとまっていると、作品にそれが絶対、反映されるんですよ。

 だからこの会社では、僕は、スタッフの健康と成功をお祈りするのが役割です。僕はなにもできない。

本当ですか。

川口:あえて言えば、変な人を寄せ付けない鼻は利くかもしれません。

ほお。

川口:小さい組織なので、ちょっとしたことで潰れますから。くせの悪い人をひとりふたり入れたら傾きます。僕は1回、慢心して「人は、育てればいいじゃないか」と、求人の面接を人に任せた時期があったのですが、とんでもないことになってしまいました。結果、その時の制作チームの雰囲気が、フィルムに透けて出てしまった。僕が真面目に向き合わなかったから。しっかりしないと、天才の足を引っ張る。それはダメだろうと強く思っています。

 スタッフの気持ちは絵に出る。ギスギスしたスタッフ同士が絡んだ絵も、一体感を持って作った絵も、それぞれが透けて出てくる。だから、できることならスタッフは生活の不安が少ない正社員にして、みんなを気分良く前向きにぶっ倒れられる働き方で、青春の時間を使えるようにしたい。

ある日、川村元気プロデューサーがやってきた

ところで、新海監督作品で東宝が配給を行ったのは、前作「言の葉の庭」(2013年)からですね。

川口:はい、新海誠の得意な分野で、キャラクターが、監督の内面と共に前に出ている作品です。

 2013年という、「いつ何が起こるか分からない。失われるかわからない」という時代に、「きれいなものを見つけて切り取ろう」という気持ちが伝わる映画だと思います。新海が、自分が住んでいた新宿をリアルに、かつ美しく描いた。というより、彼はおそらく、どこでも美しいところを見つけるんですよ。個人的には、大っきらいだった雨の日が、この映画を経て一転して、好きになりました。

 この「言の葉」で配給をお願いして、いい結果が出て、東宝の方たちと信頼関係を作れた経験が「メジャーな舞台に出るのもいいじゃないか」と、新海誠と自分を動かしました。

 神様が筋書きを描いたようなお話で、そもそも、2002年に「ほしのこえ」を公開したときに、「君の名は。」の川村元気プロデューサー(当時20代)が上司の役員を連れて、コミックス・ウェーブにやってきたんですよ。「いずれ、ぜひ新海監督とお仕事をさせてください」と。

その役員の方というのは。

川口:島谷能成さんです。現社長の。

うひゃー。

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