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「秒速5センチメートル」新海誠監督、2007年公開作品

(前編→「君の名は。」までの10年を聞く

 興行収入が200億円を超えた「君の名は。」。この映画を作った新海誠監督と10年以上前から組み、彼の作品を作り、販売する「コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)」を率いてきたのが、伊藤忠商事出身の川口典孝氏でした。

 このインタビューは2016年9月に、「君の名は。」の興行収入100億円が見えた時点でのものです。「3年間、新海誠がアカデミー賞を取るまで待って欲しい」ということだったのですが、なんとか納得していただいて掲載となりました。詳しい背景は前編をお読みください。

 後編はいよいよ、CWFが「大企業に首根っこを押さえられずに」10年間生き残って、「君の名は。」にたどり着いた背景をうかがいます。(Y)

(2016年9月28日・コミックス・ウェーブ・フィルム本社会議室にて)

話を戻しますが、川口さんが率いるアニメーション制作会社、「コミックス・ウェーブ・フィルム(以下CWF)」が生き残ってこられたのは、つまりはちゃんとDVDやブルーレイが売れているから、ということですか。

●CW、CWFの主なアニメーション作品

川口:はい。まず、自社でDVDを売っていること。海外セールスも直接やっている。配給も前々作(「星を追う子ども」)まではCWFが劇場と直接やってきたこと、は大きいと思います。DVDの利益は自分で売ったら意外に大きい。それで「いい作品を作る」前輪と、「会社を存続、成長させる」後輪が噛み合った。

なるほど。自社流通ならば、卸になるわけですから取り分がずっと大きい。軽く倍以上になりますね(卸の取り分は大まかに頒価の6割、流通を任せる場合は2割前後と言われる)。

川口:そして先ほど(前編参照)の、DVDの販売が振るわないことについていえば、新海誠作品はダメージを受けていません。なぜならば、乱発していないからです。

DVDが売れない時代でも、新海作品は売れる

テレビアニメは1クールごとに数十タイトル×5巻とかで、新作が出るけれど…。

川口典孝・コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)社長

川口:新海作品は、だいたい3年に1本です。パッケージの値段も抑えめ。「だったらコンプリートしよう」という層がいてくださる。村上春樹の小説と同じで、買って、なにかの折に時々、あの世界に触れたくなる。

村上春樹ですか…。確かに「並べておいて、ふと、あの世界に触れたくなる」というのは分かります。

川口:何度も見るのならば、買ったほうが見やすい。テレビシリーズではなく映画なので、長くても2時間前後で終わるから見やすい。

だったら、Netflixやhuluでも、いつでも見られますけれど。

川口:ところが、それでも買ってくださるんです。例えば、新海作品が金曜日に配信されると、翌月曜日にはディスク(DVD)の注文が来る。見て、気づいて「あ、買わなきゃ」と。今回は映画の公開後、これまでの既存作品にとんでもない量のリピート発注が来て、増産が間に合わず「ごめんなさい」と頭を下げまくっています。

 新海作品は「手に取れる、棚に置ける、リアルなモノとして手元に置いておきたい」と思ってくださるのでしょうね。ですので、これまでも今後も「充実したブックレットが入っている保存版」となるようなパッケージ制作を心がけています。パッケージにもめいっぱい凝る。それを受け止めたいと思ってくれる方がたくさんいる。もちろん、そこに価値を見いださない方も大勢いらっしゃるから、そちらはネットで見てくださればいい、ということですね。

 CWFは、新海誠が新作を公開する度に、過去作品が売れて、それが資産になっているんです。2002年の「ほしのこえ」から、レンタルショップに置かれているのを見つけた若いファンの方が作品を追いかけて、育っていく。支えてくれる。

「ほしのこえ」を中学校で見たら、30歳くらいの方ですね。

川口:そういうよき理解者の方が、新海誠とCWFを支えてくれているのだと思います。

言い換えれば映画1本1本が、まさしく真剣勝負ですね。ということは、失敗を許容しにくいということでもありますね。いままで、ビジネス的に失敗、つまり制作費の回収ができなかった作品はひとつもないのですか。