“聖地”。立地もそうですが、日本のアニメーションを実際に制作する制作会社の、一般的なやり方に習わなかった、という意味ですかね。(※注:日本のエンタテインメント業界では、資金を提供する側を「製作」、実際にコンテンツを作る側を「制作」と表記する。なお、CWFの本社は東京都千代田区)

川口:そうです。だから、CWFが、資金を出す「製作・プロデュース」だけじゃなくて、実際にフィルムを作る「制作」機能を持っている、と、知らない人もけっこういたりします。

「君の名は。」の最後に「制作 コミックス・ウェーブ・フィルム」と出て、「えっ」と思ったりする。CWFはもともと、新海監督のアニメ作品を作るために川口さんがMBOを行って用意した制作会社でした。で、CWFは他の制作スタジオと何が違うのですか。

川口:端的に言えば、テレビ向けの仕事をしないことです。我々の規模の会社では、「テレビの仕事を受けて、回し始めたら終わる」。世の中の人はどう思うのか分かりません。でも、僕はそう思っています。

それは、テレビアニメの仕事は、日々の運転資金は入るけれど、企業、あるいは社員が成長するに足る収益は上げられない、ということでしょうか。

川口:受け止め方は読んだ方にお任せしたいです。もちろん、テレビ向けのアニメには優れた作品、刺激的な作品がたくさん登場しています。テレビ局にも優秀な方も多くいらっしゃる。しかし、制作を行うビジネスは非常に厳しいです。

寄席で客が入る芸人さんでありたい

人の問題ではないということ?

川口:自分も大企業にいたから分かるのですが、大企業の社員は、たとえいくら優秀で、人間的にいい人でも、最後の最後は、小さい会社を守る決裁権を持っていません。(持っている人も)いるかもしれませんが、極めて限られています。

 たとえば「つぶれそうな優れたスタジオがあって、3000万円で救える」という状況でも、いち社員の裁量では普通はお金を出せません。これは、社員や企業が悪い、ということではないんです。言いたいのは、CWFのような会社は、大企業に首根っこを捕まれる経営をしてはいけない、ということです。

下請けスタイルではダメだとしたら、日々のお金をどうやって得るのでしょう。

川口:もう、ダイレクトにお客さんです。新海誠を初め、CWFのクリエイターの作品を買ってくれるお客さんさえ付いてきてくだされば、次を作らせてもらえるお金が入ってくるんです。

 テレビ局と良好な関係を築いても、結局、番組の人気が出なければ先は分かりません。でも、映画に1800円払って観てくれる人はウソはつかない。CWFが10年生き残れたのは、この精神を大事にして、常に見てくれるお客さんと向き合っている気持ちを持ち続けていたからだと思います。

 たとえて言えば、寄席の高座の芸人さんです。僕も時々行きますが、入場料を2500円払って見てくれるお客さんがいる限り、舞台に立って日銭をもらえるので食いっぱぐれない。彼らに視聴率なんて関係ない。不倫して報道で叩かれたって、面白ければお客さんは来るし、テレビで謝る必要はない。でも、タレントさんがなぜ記者会見までして謝るかと言えば、テレビ局にはスポンサーがいるので「使うな」と言われたらアウトだから、速攻で謝罪する。

首根っこを捕まれているというのは、そういうことですか。

川口:例えば本当に魅力のある映画スターならば、なにかスキャンダルがあっても、1800円払ってその人の主演映画を見に行く人は減らないでしょう。

次ページ できることなら、ぜんぶ正社員で作りたいです