大ヒットを狙いすましたわけではない?

川口:いや、本当に、目の前のことを一生懸命やってきただけです。だいたい、僕の中での「リクープ」というのは、アニメーションの上映だけだったらたいてい大赤字になるところを、DVD・ブルーレイ(の販売収益)や配信でなんとか回収して「あまり儲からなかったけれど、作品は作れたね、やってよかったね、次も何とか作れるね」…というくらいのものなんです。

 ですので、金額はさておき、「映画の興収で制作費が回収できる」ということ自体が、凄い話です。はい。

いくらなんでも弱気すぎませんか。だって「君の名は。」は、東宝が全国最大級のサイズで公開に踏み切りましたよね。それなり以上の興収を見込んでのことでしょう。

川口:その通りですが、東宝が300館で公開してくださって興収が15億では、委員会のリクープには至らずもう「次」がない。だけど30億円を越えたら、「次」が見えてくる。そんな線かなと自分では思っていました。

30億円…。

川口:このアニメーションに関わったみんなが笑顔になるには、そのくらいは必要、ということですかね。ですので、公開前に「興収35億を超えたら臨時ボーナスを出すよ!」と宣言してました。そうしたら、8月26日の公開から翌週には超えて、9月15日に1回目のボーナスを出すことになりました。今回はCWFの社員だけではなく、全員は無理だったけど、できるだけ参加していただいた外部の方にもお出しして。

いいお話ですが、そういうのって税務署が…

川口:「それ、損金算入できないんじゃないの」と、会計士とやりとりしてます(笑)。

それにしても、もう100億円が見えているというのは凄いです。

川口:フィルムの力ですよね。特に若い世代、例えば高校生が1000円以上の入場料を払って3回も4回も見てくれています。それは、それに耐えうる仕事をみんながやった結果で。振り返ってみたらすべてが神がかっていました。それに、制作会社の社長という自分の立場から言えば、現場でずっと張り詰めていた糸が、最後まで破綻せずに制作が完了したこと自体が奇跡だったように思うんです。

「聖地」でないところでやってきた

2002年の「ほしのこえ」から、「君の名は。」まで、川口さんが新海誠さんに伴走して15年になりますね。そして、いわば“新海さんのために”コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)という会社を作り、走らせ続けて10年。CWFが10年続いた、そのこと自体が、相当の奇跡というか、難事業だったと思うのですが。

川口:そうですかね(笑)。

「生き抜いた」ことが、「君の名は。」につながったわけですから。

川口:そうかもしれませんが、今はあまりその話をしたくないのが正直なところです。興行が絶好調なところに対して、過去のなれ初め話をする必要はないような気がして。なんか足を引っ張るような気がして。

それはわかりますし、足を引っ張るのは私も本意じゃありません。

川口:将来、新海誠がハリウッドのレッドカーペットを歩くまで待ってもらえたらありがたい。

了解しました。では、この会社、CWFという会社が10年間、どうやって生き抜いてきたのかというお話なら、聞かせていただいてもいいでしょうか。

川口:う~ん、アニメーションの業界の外の方に通じるお話かどうか分かりませんが…まず、僕らはあえて ”聖地” (三鷹、吉祥寺などの西東京エリア) ではない所でやってきたんです。

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