全8476文字

いつごろからこの分野を志望されたんでしょう。つい先日、ある航空機の設計者から「飛行機なら飛行機、音楽なら音楽で、ある分野のスペシャリストになるためには、15歳ぐらいまでに1回、自分の中の興味や好奇心に、がーっと火がついちゃうことが重要なんだ」という話を聞いたのですけれど。

坂本:あ。それはすごく思います。

何か、そういうのは分かりますよね。

坂本:分かりますが、私は実はそれがない人なんです。

では、どういう人なんでしょうか。

実は絵画やデザインが専門でした

坂本:創作活動が好きだったので、高校は美術科に進学しました。絵画とかデザインを専門にしていたんですね。その反面、勉強が本当に大嫌いで、宿題も全部踏み倒していました。決してほめられた学生ではありませんでしたね。

えっ。じゃ、どうしてこんな職場にいらっしゃるんでしょうか。

坂本:あるとき、生物学の教科書を見て、それがきっかけです。自分で勉強し始めたらすごく面白くなってきて、そこから、「生物の研究者になりたいな」と思うようになり、1年浪人して大学は農学部に入学したんです。

むちゃくちゃですね(笑)。よっぽど面白い生物学の本か何かを読まれた?

坂本:いやいや、教科書に載っているごく基礎的な「メンデル遺伝」とか「カエルの発生」だったんですけど、私にはすごく響いたんですよね。陳腐な言い方をすれば、教科書の一行に込められた先人の叡智に感動したんです。それまで、まったく「生き物の素養」というのはなかったのですが……。

 さきほどおっしゃられたように、「15歳前後でそういう才能が1回爆発しておかなきゃいけない」というのは、この世界にも結構あると思いますね。特に昆虫を対象にしている研究者には、小さいころから虫に詳しい方が多いです。

ああ、養老孟司先生みたいな。ちょっとこう、個性的な。人からどう言われようが「俺はゾウムシが好きなんだ」みたいな感じの。

坂本:昆虫標本を蒐集したり、マニアックな知識を持たれている方と比べると、自分には足りないものがあるな……と思うところはあります(笑)。でも、ポジティブに考えると、対象にこだわらないというスタンスが取れますね。

なるほど。一歩ちょっと引いて。

坂本:引いて、冷静な目で見ている。これは私もそうですし、上司(五箇氏)も同じようなスタンスですね。

完全に余談になっちゃいますが、いきなり生物への興味が目覚めて、その道に進んでしまうということがあるんですね。面白いですね。

坂本:何ででしょうね。資料集がカラフルで刺激的だったのかもしれませんね。まぁ、それがきっかけで化学とか数学も勉強を始めるようになりました。

そっちの方まで?

坂本:いや、だって、そうしないと理系の大学が受けられないので、最初は仕方なく。でも、勉強し始めたらそれはそれで面白くて。同級生の多くは、デザイナーとか画家など、芸術系の道に進みましたが、私は結局研究者になりましたね。人生どうなるかわからないです。

あんなに勉強が嫌いだったのに。

今の私を親が見たら、きっと驚くと思います

坂本:今は、勉強熱は結構ありますよ。夕食後は勉強しています。昔の自分からは想像もできません。親が見たら驚くと思います。

あれ、勉強を急に始められたのは15歳前後の話ですよね。

坂本:15~16歳かな。

ああ、つまり、それは「15歳の爆発」を、ご自身でご自身に火をつけてやってのけた、ということなんじゃないですか。何が効いたんだろう。

坂本:そうですね、強制されない勉強が初めてで、面白かったんだと思います。やれやれと言われる勉強を、「やれと言われたらやりたくない」みたいな、あまのじゃくなところがあったので。

そうか(笑)。先ほどの生態系のお話に引っかけて言えば、坂本さんはやらされる「勉強」の世界から、やりたいからやる「研究」の世界に、外来種として来ちゃったようなものだったんですかね。いや、面白かったです。ありがとうございました。

坂本:いえいえ、ありがとうございました。ミツバチの研究の方がまとまってきたら、また来てください。

坂本さんのニホンミツバチ(写真)の研究も非常に面白いのですが、次の機会に(撮影:坂本佳子)