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坂本:ヒアリはヒアリで別のデータを使う必要がありますが、モデルの枠組みはこのままで使えます。ただし、まだヒアリが日本で定着・繁殖しているところはないので、こういったデータをとる機会は今のところはありませんが。

 今は、ヒアリが好んで食べそうな餌を選別している企業や研究グループもあるようです。いくら効果的な殺虫剤を使っても、混ぜる餌が魅力的でないと食べてくれないので。

なるほど。しかし、話が戻っちゃいますが、外来種対策としては、島国で良かったですよね。陸でつながっていたらトラックでも鉄道でもばんばん入ってくるわけで……。

坂本:もちろん。ただ陸続きの場合は、人間活動に関わらず生き物同士が行き交い、ある程度競争を経ているものと思われます。

ああ、そうか。生存競争が頻繁にあるから、強い生物が「在来種」になっているわけで。

坂本:島国の生き物は大陸の生き物に比べて比較的弱いかもしれませんね。でも逆に日本を含むアジア産のものが欧米で猛威を振るうということもありますよ。

あるんですか。

坂本:植物では「葛(クズ)」、動物では「コイ」が有名でしょうか。ただし、外来種のすべてが人間にとって「害」ではないことをここでは強調しておきたいと思います。例えば農作物なんてほとんど外来種ですけど、我々が手を掛けてしか生育できないとか、勝手に増えていても目立った影響が見られないとか、そういう面で害は少ないと思います(もちろん野生化した栽培種もあります)。一部の外来種が、多様性を脅かすような存在になるんですね。

外来種は絶対に悪者、とは決めつけられない

外来種=悪、脅威、ではない。

坂本:そうです。そして、外来種が実際に脅威になるかどうか、それって原産地での生態では分からないんですよ。そこから解き放たれて、新しい土地に入ったときにどうなるかが初めてわかる。

なぜですか。

坂本:もともといた土地では生態系の中に組み込まれていて、個体数がコントロールされているからです。ヒアリやアルゼンチンアリだって現地には天敵がいるわけですよ。でもそういうのがいない新しい土地に来ると、敵がいないからものすごい勢いで繁殖できたりするのです。

不謹慎かもしれませんけど、それって面白いですね。環境の変化が同じ生物に大きな影響を与えたり、与えなかったりする。でもそもそも、元の状態では「環境がこう変わる」ということ自体が予想というか、想像もつかない。

坂本:そうですね。そういったことをシミュレーションしたり、実験で証明しようと試みている研究者もいらっしゃいますよ。

研究者としての坂本さんご自身についてもすこしお聞かせ下さい。生物学者の方は、アリならアリ、ハチならハチ、という「ある生き物」にこだわられる方と、自然環境の中にあるシステムにご興味がおありの方がいらっしゃるようです。坂本さんは?

坂本:そうですね。私は分類群に対するこだわりはありません。環境問題にかかわる研究をベースにやっていきたいと思っていて、今は外来種を中心にテーマを広げています。

 環境問題というと、すごく応用的な研究、と思われがちですが、私自身は基礎的な研究にも興味を持っていて、現在進めている「ミツバチに寄生する外来ダニ」の研究はまさにそれにあたります。人間が養蜂のためにミツバチを移動させたことによって、ミツバチは本来出会わなかったはずの新しい病気・寄生症(つまり外来生物)に苦しんでいます。今は、その発症メカニズムを、行動学や形態学的な視点から解明することを試みているところです。私自身は、基礎的な学問をベースに社会とのつながりを常に意識しながら、環境問題にアプローチすることを心掛けています。