全8476文字

なるほど。お聞きしていると、港というのは、ある意味一番守りやすい場所のように思えますね。

坂本:守りやすいというのは?

埋め立て地ならば、人工の土地ですから既存の生物への影響が少なそうですから、防除のためにかなり強い手を打てる、のではないかと。

坂本:そうですね。こういう言い方は何ですが、もともと自然にはなかった土地ですからね。それに、もしその場で在来種がいなくなっても、時間が経てば、周囲から再移入してくると考えられます。

 これが自然保護区や市街地になってしまうと、途端に防除が困難になってしまうんです。守らなきゃいけない在来種がいたりすれば薬剤を散布しづらくなってしまうので、こういったバッファーゾーン、つまり港湾という人工的な土地で、いかに侵入を阻止するかが勝負ですね。

アルゼンチンアリがいなくなったのは、坂本さんたちが実験を行った東海、城南だけですか? 今は日本にもこいつらはいるんですか。

坂本:まだ残っていますが、我々のマニュアルをほかの地域に適用していって、順次防除活動を進めています。横浜でもほぼ根絶のステージに入っていて、カウントダウンの段階ですね。

ああ、きちんと検証しているから、同じモデルが使えるんですね。

坂本:このモデルの使いどころは、他にもあります。防除を始めて数回分のモニタリングデータがあれば、減少率を推定することができるんです。そうすれば、まだ個体数がゼロになっていなくても、「あとどれぐらい防除を続ける必要があるのか」ということが推定できるのです。

そうすると、どんなメリットが?

坂本:国や自治体の予算って、基本的に1年単位で区切られていて、ロードマップを提示しないとなかなか予算が下りないですよね。「いつまで続くの?」という問いに答えられないと「計画性のないことに予算を使えない」となっちゃう。まぁ生き物が相手ですから正直なところ「やってみなくちゃわからない」ことが多々あるわけですが、それでもこのモデルを適用すれば、大筋のロードマップを見せることはできる、ということです。

防除に「予算的な根拠」が用意できる

なるほど。「あと3年間はかかります、なぜならモデルで見るとこうだからです」と説明できる。

坂本:そうなんです。

お金が付かないと何事も動かないわけですから、このモデルで、アリの防除活動に対して、予算的な根拠を持てるようになった。これは大きな貢献ですね。

坂本:ええ、東京で根絶成功事例を作ったことによって「こういう前例があります。だからこの方法であればこれこれの期間で根絶できますよ」という、指針ができました。

「もう見つかっていないなら打ち切ってもいいじゃないか」という意見への反論もできますね。

坂本:それもありますね。その場合、今打ち切ると「何%の確率で残存している可能性があるので、再度増殖すれば、またこれくらいの予算が必要になります」と提示することもできる(笑)。

研究には、予算獲得の論拠としての意味もあるんですね。

坂本:そうですね。あ、これを経済の話と絡めようとしていますね。

うっ。でも、こう話していただけると、私のような普通の会社員にも、研究の価値や効果が分かります。

坂本:アルゼンチンアリの防除に関しては、研究の段階はある程度完了していて、今は事業としてのシステムの構築の段階に入っています。防除計画段階からある程度のロードマップを見せられるようになったことが大きいですね。

坂本さんたちは、アルゼンチンアリの対策立案の過程で、予算対策というところまで考えていたのでしょうか。

坂本:もちろん一番の目的は、どうやって「根絶」だと推定するかということでした。ただ、こういうモデルをつくったときに、予算申請の際の根拠として使えるんじゃないか、といったアイデアは最初からありました。

さて、ではヒアリについても伺います。アルゼンチンアリを根絶した方法をヒアリに対しても使える、と考えていいのでしょうか。それとも、もう1回ヒアリで同じ実験を繰り返す必要があるのでしょうか。