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坂本:3年間のモニタリングデータを解析してみた結果、「アルゼンチンアリの資源競争に強い性質が、逆にベイト剤を多く摂取する結果となり、その効果が波及しやすかったんじゃないか」という結論に至りました。

なるほど。「取りあえずどうなるか見てみよう」とやってみたら、在来種が減らないわりに外来種の方にダメージが出ていることが分かってきて、これは使える、と。

坂本:そうです。はい。いってみれば結果論です。

「在来種よりも競争に強い外来種だからこそ、餌=遅効性の殺虫剤をたくさん巣に運ぶので、コロニーが壊滅した」ということですよね。すごい発見のような。

坂本:発見というか、考察です。さらに、我々はアルゼンチンアリ「根絶」にも成功しました。この成果は世界初になります。

●国立環境研究所のプレスリリース「特定外来生物アルゼンチンアリの地域根絶について~数理統計モデルを用いた根絶評価手法の確立~」は、こちら

何を持って「根絶」と言えるのだろう

こちら(上記資料)を読みまして、「根絶」というのは、何を持ってそう言えるのだろう、と考えたのですが。

坂本:それは大事な疑問です。実際にアルゼンチンアリが検出されなくなるのが防除開始後26カ月前後ですけれど、その後に、どれくらい検出されなければ「本当にいない」と言えるのか? 根絶したから検出されないのか、本当はまだ残存しているんだけど検出できていないのか、それが今までまったく分からなくて、かなり感覚的だったのです。

 「まあ、これぐらいの間検出されないから、もういなくなったんじゃない?」みたいな感じでアリの防除って打ち切られてきたんです。その結果、1~2年後にまた発生してしまったケースもあります。その場合、結局、見た目にはいなくなったけど取り残しがあった、ということになります。

 我々は、そういった感覚的な判断ではなく、「確実に根絶したということを何らかの方法で証明すべきだ」という主張のもと、このモデルを考えました。残存確率を計算することによって、今どれぐらいの確率で残っているのか、ということが分かるようになったわけです。

実際にその空間にアルゼンチンアリがいるかいないかをどうやって担保するのかと思っていましたが、坂本さんたちは、どういうカーブで減少していくかのモデルを作られた、ということですね。

坂本:そうです。実際に、このような減少曲線を描くことに成功しています。下のグラフの、この5%、1%というのが残存確率で、5%だったら35カ月から38カ月必要で、1%まで下げようとすると38カ月から42カ月という結果になりました。

東海と城南島における調査回数に応じた推定残存確率

26カ月以降というのは、「餌を置いても引っ掛かってこないけど、計算上このくらいは生き残っているだろう」ということなんですか。

坂本:そうなんです。餌というか、我々がモニタリングに使用したのは粘着性のトラップで、そのトラップにアルゼンチンアリが1個体も捕獲されなくなったんですね。でも、アリがトラップで捕獲されるかどうか、には別の環境要因が絡んでいて、そのまま計算することはできないんです。そこで、まず環境要因を分離する必要があります。

「ゼロ」は永遠にあり得ない

環境要因を分離する?

坂本:我々が知りたいのは、防除継続後、何カ月後にアルゼンチンアリがどのくらいそこに残っているか? です。しかし、アルゼンチンアリは、暖かい時に活動し、寒くなったら巣からほとんど出てこない、という、温度によって活動量が左右される性質を持ちます。そういった要因を分離しないまま計算すると、冬と夏の個体数の変動が大きすぎて減少率がよくわからなくなってしまいます。そういった環境要因を分離して、単純に、調査期間と個体量の推移だけで見られるようにしていくわけです。

アルゼンチンアリの個体数を計測するために、粘着トラップを設置する(撮影:坂本佳子)

なるほど。環境要因ということは、場所の違いも排除しているんでしょうか?

坂本:今回のモデルでは考慮していませんが、2カ所の調査地においてほぼ同じような結果になったので、港湾などのアスファルトの多い開けた場所で防除した場合は、これぐらいの減少率であると考えています。

5%で充分なのか、1%まで待ったほうがいいのか、という点についてはどうでしょう。

坂本:残存確率は限りなくゼロに近似していきますが、ゼロになることは永遠にありません。ですから、任意の確率で防除の打ち切りを判断することになります。要は、残存確率がどの基準を下回れば許容できるのか、ということですね。そこの決定権は科学者にはないと思っています。

どこで打ち切るかは、いわば決め事なのですね。

坂本:そうですね。ちなみに、我々の論文では、1%の残存確率を根絶判断の基準として根絶宣言をしました。