キャラクターのプラットフォームにもなれる

八谷:話が前後してしまいました。ポストペットVRは基本は「20周年盛り上げアプリ」なんですけど、その先にスマホ用のポストペットも当然考えていて、でもそれはメールソフトではありません。メッセージアプリとして作るつもりです。

 ポストペットだけど、メーラーじゃないんですか。

八谷:僕らがメーラーとしての「ポストペット」の開発を止めてしまったのも、メールがスパムで汚染されて、スパムフィルターの性能がメーラーの品質を決めるようになり、最終的にはGメールなどが主流になったことがあります。その後、端末がすっかりスマホに移行したので、今やプライベートなメッセージのやりとりは、メールではなくFaceBookやLINEなどのメッセンジャー系になりました。

 ですので、ポストペットVRでベースの開発をした上で、ゆくゆくはメッセージ機能をもつスマホ版を作りたいけれど、メッセンジャーアプリはダウンロード数が多くないと意味がないし、では、100万ユーザー、ということになると、今度はその環境を作って維持するのが大変です。

 そこで、ポストペット20周年というタイミングで、まずペットたちと同じ空間で遊ぶことを目的としたVRアプリをPC先行で作ってみよう、と。これならユーザー数が限られますし、開発手段もそれほど費用がかからないから、リスクが少ない。そこでうまくいったら、スマホ版の試作作ってVR版と連携したい。

 スマホ版は、例えばどんなイメージですか。

八谷:もちろん、スマホ版同士でペットにメッセージを託して運んでもらえるわけですが、それだけではなく、例えば、Yさんのスマホの中に、VRユーザー、例えばゴーグルをかぶった自分(画面内では紙袋を被ったキャラクター「アンノウン」になる)がペットのかわりに、メッセージ配達にやってきて、Yさんがスマホ上で僕のキャラを撫でると、自分の視点では、上から巨大な手でなでられていて怖い、みたいな。そこまでやれたら面白いですよね。

スマホ版の試作品。
スマホ版の試作品。

 スマホとVRのリアルタイム連動って僕が知っている限りはまだないので、そこに到達できるといいですねえ。大きなビジネスに出来なくても、スマホとシームレスにつなぐことが出来たら、この後にもつながる。例えば、先のお話みたいにスマホで育てたキャラと体験型施設で遊べたり、プレイステーションVRに持っていっても面白くなる可能性が出てきます。そこまで行けばプラットフォームになれる。

 ん、プラットフォーム? そうか、これ、ポストペット以外でも…。

八谷:「御社のキャラクターのデータをもらえれば、VR版を廉価で作りますし、カスタマイズもしますよ」ということですね。お気に入りのキャラクターを、普段はスマホでかわいがって、ショッピングモールに会いに行く。その際に、どういうリアクションがかわいいのか、何をすると嬉しいのか、ポストペットVRを開発することでどんどん経験値を積んでおければ、と考えています。

 …例えば「だっこ」の動作に著作権とか取れるんでしょうか?

八谷:調べたことはありませんがアイデアなんで、著作権は無理じゃないでしょうか(笑)。何かを独占して知的所有権で大もうけ、というのではなくて、それぞれのキャラクターにマッチした世界観や動きをコンテンツとして、そのキャラクターを愛している人達を楽しませる、というのが、日本人である我々に合ったやり方だと思います。そういう「愛玩VRアプリ」を作る際の基礎みたいなのが自分たちで作れたらいいな、と。

 日本はキャラ大国だし、アジアでも受けている。親和性が高そうです。ううむ、もっと欲張ってもいいくらいのプロジェクトではないですか? クラウドファンディングといわず、VCから出資を仰いで…

本当に命懸けなら、慎重になるのが当然

八谷:欲張ると大きな話になって、大きな話になると、当初計画を柔軟に変更したり、時間をかけることが難しくなってきますよね。それに、いろんな会社と組むことが難しくなるかもしれませんし。

 人が増え、ステークホルダーが増えればそうなりそうですね。

オープンスカイのボランティアスタッフと記念撮影。
オープンスカイのボランティアスタッフと記念撮影。
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八谷:新規事業だと「一刻も早く結果を」と言われることが多いですが、僕は、期間がかかることも悪いことばかりではない、と思うんです。「ユーザーと一緒に作る」のであれば、かけた時間は無駄にならない。M-02Jは「ナウシカのメーヴェで空を飛びたい」と思ってから、昨年の場内周回飛行までに13年かかりましたが、その間に小型ジェットエンジンやIT系のデバイスが、猛烈に安く、しかも高性能になりました。なにより自分も13年間すごく楽しみましたし。また、無理せず進めてきたから、僕も死なずに済んだのだと思います。

 「命がけで」とか軽くいいますが、飛行機ですから、八谷さんは文字通り命がけのプロジェクトだったわけですよね。

八谷:ええ。自分が死ぬのもごめんだし、会社が倒産するのも避けたい。ならば、無理せず、どうすれば生き抜けるかを考える。すると、時には回り道をしたり、あるいはリスやクマみたいに状況が良くなるまで冬眠するのもありだな、となる。でも、関わる人やお金が多すぎると、それが許されなくなりそうですよね。「この人数分の売り上げを次の四半期で」みたいな話になっていくので。

 外は吹雪なのに「死んでもいいからどんぐり拾ってこい!」と強制されるかもしれない。

八谷:規模があった方がやりやすいことも当然ありますが、小さいことのメリットも当然あります。それと経営者のキャパシティが…ペットワークスは取締役全員が「ぼくたちが管理できる組織って、10人以下だよね」と自覚してますから。

 笑うところなのかどうか…。でも、そういう考え方は大企業の新規事業にも参考になるかもしれません。八谷さん流の「新規事業のコツ」を、最後にまとめていただけませんか。

八谷:参考になるかどうか分かりませんが、まず、やりたいことをやること、そして何より「人に見せること」が大事。その企画が世の中で受けるかどうかを早めに知ることができます。そして人に見せることを通して、好感を持って応援してもらえるように、「見せ方」を考えるようになるでしょう。その次に、お互いに楽しくやれそうな企業や個人を巻き込んでいく。自分たちだけで全部まかなう必要はなく、多くの人と組んでやったほうが、お祭りに近くなっていきますし。

 予算がないならないなりに、そのプロジェクトに意義があり、楽しそうだったら人はついてくると信じて、小さな雪だるまを大きくしていきます。クラウドファンディングも、そのひとつの方法だと思います。そしてとれるリスクと取れないリスクを見極めつつ、ゆっくり着実に、ってところですかね。