工事は当初、順調に進みました。ですが、その後、大きなトラブルが起きたのです。工事が始まって2年目の2013年6月のことです。生産設備を発注した会社から突然、「代金が支払われていない」と昼夜を問わずクレームの電話が入ってきました。そして同年8月には民事訴訟を起こされました。

 この会社には設備代金の一部である約1億8000万円を2012年7月に払っています。ただ、料金を支払った直後、同額を同社から借りる約束をしており、支払いを済ませた後、同額を当社の口座に振り込んでもらいました。この借りたお金は、補助金を申請して受給したり、融資を受けたりして、資金が調達できてから返済するつもりでした。

 それなのに先方は「代金を貸した覚えはない。いったん受け取ったカネを払い戻したのは、誤送金だったとシンコーに言われたからだ。シンコーは代金を払うつもりはない。支払ったように見せかけて、その分の補助金を県から不正に受け取った」と主張してきたのです。

 今から思えば、借用書を作成せず、口約束だったことは悔やまれます。ただこれは商習慣上、よくあることですし、この時、同時に他社からも同じやり方で資金を借りています。

 この会社がクレームをしてくる動機が全く分かりません。支払いに見解の相違があったとしても、民事訴訟までする意味は何だったのでしょうか。

 宮城県も公益通報があったとして、この件の調査に乗り出しました。ただし、私は一度もヒアリングされることはありませんでした。そして2013年11月、突然、補助金適正化法違反の疑いで刑事告訴されました。

 その時点では、トラブルになった設備会社とは訴訟中でした。ただでさえ慎重な行動が求められる行政が一方的な情報から刑事告訴したことは、驚愕とともに強い憤りを覚えました。

 宮城県は補助金の返還を求めてきました。ですが、不正のレッテルを貼られて金融機関からの融資はすべてストップ。当座の資金繰りにも窮し、返せるはずもない。にもかかわらず、追い打ちをかけるように2014年3月、既に受け取っていた別の補助金と合わせて約6億円の返還命令を出してきました。

県に上申書を書かされた

 一方で設備会社とは仙台高等裁判所で2015年1月、和解が成立しました。「双方の主張に相違があることを認め、第三者に対し、それぞれが自己の主張を述べることに異議を述べない」ことが和解条項に盛り込まれました。つまり、不正受給という結論には至らなかったのです。

 そうなって、あわてたのは宮城県です。マスコミ関係者の間には不起訴処分になるとの観測も生まれました。そうなれば、刑事告訴は取り下げざるを得なくなります。

 しかし宮城県はあくまで自分たちの間違いを認めたくなかったのでしょう。刑事告訴の取り下げを求める上申書を県に提出するよう私たちに対して求めてきたのです。上申書の原稿も送ってきました。そこには「一連の経緯について反省し、補助金交付の取り消しと返還命令には異議はありません」というすべてはシンコーに責任があるかのような、理不尽な文言が並んでいました。

 私どもとしては、とにかく刑事告訴を取り下げてもらい、一日も早く信用を取り戻したかった。そのため不本意ながら、2015年3月16日に上申書を提出したのです。そして、同27日に刑事告訴は取り下げられました。

 宮城県からは、その後のフォローも期待しましたが、結局、見捨てられた格好です。シンコーは地域でまじめに事業を続けてきた会社だと自負しています。にもかかわらず、味方であるはずの行政によって私たちは潰されてしまいました。本当に憤っています。

宮城県担当者の話

 2013年6月、匿名の公益通報があった。シンコーと取引先企業の双方から事情を確認した結果、代金の支払いをいつわり約1億3000万円の補助金を不正に受給したことが判明。シンコーは不正の事実を認めず、調査に協力的でなかったため、司法当局とも協議の上、刑事告訴した。その後、シンコーから不正の事実を認め反省する旨の上申があり、刑事告訴を取り下げた。県が上申書の提出を依頼するなどの事実はない。

(日経ビジネス2016年5月30日号より転載)