折からのキャンプブームを受け、業績好調のコールマンジャパン。知名度も高く、ファンも多い。だが昨年、小売店に販売価格を守らせるなどした独禁法違反の疑いで公取委から排除措置命令を受けた。ブランドの信頼回復を託された新社長は「命令からまだ数カ月。今年も引き続き努力する」と思いを語る。
[コールマンジャパン社長] 中里 豊氏
1972年生まれ。米サンダーバード国際経営大学院を修了後、96年丸紅に入社。転職して2003年以後、日本ロレアルやフォッシルジャパンでブランド戦略などを担当。2015年11月、コールマンジャパンの社長に就任。
コールマン独禁法違反の概要
アウトドア用品を製造、販売する米コールマンの日本法人は2016年6月15日、公正取引委員会から独占禁止法違反だとして、排除措置命令を受けた。同社が遅くとも2010年以降、小売店に対して一定額より値下げをさせない「販売ルール」を守るよう要請していたことなどがその理由。約10%引きを下限として、セールの方法や時期などの条件も決めていた。
米国で1900年代にランプメーカーとして産声を上げたコールマン。キャンプ用品などのアウトドア用品を製造、販売しています。
日本法人のコールマンジャパンは76年の設立。今年5月で41年になります。10カ所の直営店のほか、全国のスポーツ用品店、アウトドア用品店、大型スーパーのキャンプ用品売り場などで当社の製品を販売しています。
長い歴史を持つブランド、コールマンですが、昨年6月15日、「Coleman」の商標が付されたキャンプ用品の販売において、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」に違反するとして公正取引委員会から排除措置命令を受けました。
このことは日本法人、さらには米国本社も非常に厳粛に受け止めております。取引先、そして消費者の方々にご迷惑、ご心配をおかけしてしまったことを大変、申し訳なく、また、その影響を非常に懸念しております。
「法令順守の体制を強化して、皆さんの信頼を回復していく。よい製品、よいサービスだけではなく、それをどのように売っていくのか。適正な販売方法を徹底させるため、今年、来年、引き続き努力していく」
その思いを改めて今、一層、強くしております。
小売店に対し値下げを制限
キャンプ用品大手、コールマンの販売店(東京都昭島市)。米国発祥のブランドで日本でも知名度が高く、ファンも多い。オートキャンプなど最近のキャンプブームもあり日本での業績は好調に推移している
命令を受けてから、私なりにどのようにインタビューにお答えするか考え続けていました。確かにコールマンは多くのアウトドアファンに支持される強いブランドであると思います。前向きなビジネスの話も動き出しています。
ですが、命令を受けてまだ数カ月しかたっていないこともあり、まずは今回、反省の弁を述べさせていただきたいと思います。
命令については公正取引委員会から公表されています。その内容はおおまかに以下の通りです。
2010年以降、実店舗またはインターネットでの販売に関し、小売業者に「販売ルール」に従うようにさせていた行為がありました。まず、製品ごとに当社が決める参考価格からおおむね10%引き以内で下限の価格「提案売価」を決めました。そしてこの提案売価以上の価格で販売するよう小売業者に求めていました。
キャンプ用品は春から販売シーズンが始まり、夏場にかけて盛り上がります。当社の第3四半期である7~9月にピークを迎えます。その販売サイクルに合わせるため、毎年9月に翌年に投入する新製品の展示会をして、各販売業者や卸業者と商談を始めます。その際も提案売価を提示するなどして販売ルールに従って販売するよう要請していました。
販売ルールには以下の内容もありました。各販売店が当社製品を割引販売するのは、他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施する場合、または、在庫処分に限ること。しかも、当社が指定する日以降に始めることなどです。対象の商品数は約800種類で現在、流通している当社の基本的な製品ほぼ全てになります。
命令の内容については全面的に認め、昨年7月の取締役会でこうした行為を行わないよう決議し、当社のホームページでお知らせしています(編集部注:独禁法では公正な取引の観点から、販売価格を決めて取引相手に従わせる行為「再販売価格の拘束」を禁じている)。
なお、この問題については2015年3月17日に公正取引委員会から立ち入り検査を受けました。それ以降は指摘された違法行為はしておりません。私自身は2015年11月、コールマンジャパンの社長に就任しました。それ以前は日本ロレアル、フォッシルジャパンなど別の外資系企業でブランド戦略に携わっていました。ですからコールマンの不正な取引については直接、実態を把握しているわけではありません。
ただし当然、この問題については就任前から認識はしていましたし、公正取引委員会の調査の最中でもありました。そんな状況でしたが、私はコールマンの社長になる決意をしました。
私にはコールマンのブランドをもっと強くしたいという思いがありました。また、ロレアルやフォッシルは非常に法令順守意識の高い企業でしたので、そこで働いていた経験も生かせると考えました。コールマンにとっては今回のことを教訓に法令順守の体制を強化するいい機会でもあると考えたのです。
eラーニングに頼り過ぎた
もちろん、米国にも商売の基本となるフリートレード(自由な取引)の概念がありますので、米コールマン社内にも高い法令順守意識があります。ですが、少なくとも日本法人においては例えば社員研修にしてもeラーニングに頼り過ぎ、おざなりになっていたと思います。社員はみなブランドに誇りを持ち情熱を持って仕事をしています。何か組織的な欠陥が生じていたというよりは、日本において40年ビジネスをしている中で、足りない部分がありエラーが生じてしまったと見ています。
命令を受けた後、再発防止策をまとめ昨年8月に公正取引委員会に提出しました。
再発防止策の第一は研修です。昨年9月、取引先との商談が始まる展示会の開催を前に法令順守に関する研修をしました。これは単に法律に基づいたルールを説明するだけではなく、ケーススタディーを取り入れたよりコーチングの要素が強いものです。この研修は今後、毎年実施していきます。
もう一つは外部の弁護士による定期的な監査です。現在、具体的な方法について検討を始めたところです。
当然、これだけでは十分ではありません。経営トップが現場に常に目を配り全社員に法令順守の考えを浸透させないと意味がありません。ミーティングでは私も口を酸っぱくして社員に話をしています。仕事のやり方は一晩で変えられるものではない。日ごろから地道にコーチングを続けていきます。
今回のことで取引先、消費者の方々からは多くのお叱りを受けました。同時に励ましの言葉も多く頂きました。多くの方に支えられる形で、この問題が起きてからも売上高を落とすことなく推移しています。信頼を取り戻し、強いブランドを守っていく大きな責任を痛感しています。
(日経ビジネス2017年1月16日号より転載)
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