時に時勢に見放され、時に敵襲に遭い、時に身内に裏切られる――。栄華興隆から一転して敗戦に直面したリーダーが、おのれの敗因と向き合って問わず語りする連載「敗軍の将、兵を語る」を、「日経ビジネス」(有料)では原則毎号掲載しています。連載の魅力を知っていただくために、2018年3月の月曜から金曜まで、過去2年間に登場した「敗軍の将」たちの声を無料記事として転載・公開します。

(日経ビジネス2016年8月1日号より転載)

違法賭博に揺れるスポーツ業界。その影響はバドミントン界にも及んだ。リオ五輪の出場が確実視されていた選手らが違法カジノ店に出入りしていたのだ。日本バドミントン協会は、新旧エース選手に厳しい処分を下す事態に陥った。

[日本バドミントン協会専務理事]
銭谷 欽治氏

1953年、石川県生まれ。中央大学卒業後、河崎ラケット工業を経て、84年に三洋電機(当時)に入社。90年に三洋電機の監督に就任。同社女子チームを全日本実業団バドミントン選手権大会4連覇に導くほか、日本バドミントン協会の選手強化本部長なども務める。2015年から現職。

SUMMARY

違法カジノ店出入り事件の概要

今年4月、ロンドン五輪代表の田児賢一選手と、リオデジャネイロ五輪の有力候補だった桃田賢斗選手という、男子バドミントン界の新旧エースが、都内の違法カジノ店で賭博行為に興じていたことが分かった。これを受けて、日本バドミントン協会は桃田選手を五輪強化指定選手から外した。エース選手の軽率な行動で、日本はメダルの取れる可能性を1つ失った。

 4月、男子バドミントンのエース選手が違法カジノ店に出入りしたと発覚し、厳罰を下しました。ロンドン五輪代表の田児賢一選手は無期限の登録抹消。リオデジャネイロ五輪の代表候補だった桃田賢斗選手は無期限の公式競技会出場停止とし、リオ五輪の代表選手として日本オリンピック委員会(JOC)に推薦できなくなりました。

 我々、日本バドミントン協会が事実を知ったのは、4月6日のことでした。突然、新聞紙と週刊誌の記者から問い合わせのファクスが届いたのです。

 もう青天のへきれきというか、「まさか」という思いでした。とにかく事実確認が必要だと、田児君や桃田君が所属するNTT東日本の担当者に連絡を取りました。田児君や桃田君にすぐに会わせてほしいと伝えたのですが、当初は「会わせられる状況ではない」と断られました。両名とも気が動転していて、NTT東日本の担当者も、精神科のドクターを付けてヒアリングしていたような状況だったそうです。

 田児君や桃田君は、ヒアリングで違法カジノ店に出入りしたことを認めました。そこで協会としても緊急理事会を開き、全会一致で厳罰に処すことを決断しました。

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