将棋ソフトの発想は劇薬

 将棋ソフトの発想を取り入れるかは大きく悩むところです。棋士の間では日頃の研究に将棋ソフトを使うことが当たり前になってきており、そこで見つけた手順や考え方をいち早く取り入れるので、将棋の戦術面の変化が目まぐるしくなっています。特に最近は若手棋士の台頭が激しいですが、彼らは善しあしの判断の前に、将棋ソフトの戦術をサッと取り入れて生かしているところがあります。

 それに対応するには、私はかなり頑張らないといけない。将棋ソフトと距離を置くのは、今持っているものを一回横において、別のものを吸収しようとするのは、正直不安があるからです。ゼロベースで自分の将棋を組み立て直すにしても、仮に吸収できずに失敗した場合にどうなるのか考えてしまう。もしかしたら今の実力に戻れなくなることもあり得ます。

 将棋の幅が狭くなるのでは、とも思っています。例えば将棋ソフトはあまり振り飛車はやりません。これは最善手ではないとの判断だと思いますが、振り飛車を突き詰めていけば、これまで見つかっていなかった新たな最善手が眠っているかもしれない。あまり将棋ソフトに頼ると、将棋は広い世界なのに、少ない手順に収れんされて、効率的かもしれないが息苦しい世界になってしまいます。

 こうした考えも、現状は同世代同士の勝負が多く、あまり大きく負けることがないためかもしれません。下の世代が主流になり、猛威を振るってきたら、突き上げられて私も変わらざるを得なくなるかもしれません。

将棋ソフトの不正利用疑惑で挑戦者変更
竜王戦の挑戦者変更を発表した日本将棋連盟の会見(写真=朝日新聞社)

 目覚ましく進化する将棋ソフトが、日本のプロ将棋界を揺るがしている。日本将棋連盟は2016年10月5日、プロ公式戦で対局室にスマートフォンなど電子機器の持ち込みを禁止することを発表した。スマホ上、またはスマホから将棋ソフトを遠隔操作して将棋ソフトが示す手を参考にする不正行為を防止するためだ。

 1週間後の12日には、三浦弘行9段に対して、12月31日まで公式戦の出場停止処分にした。三浦9段は15日から始まる第29期竜王戦七番勝負で挑戦者に決まっていた。併せて竜王戦の出場者が丸山忠久9段に変更になり、渡辺明竜王と対局することも明らかになった。

 タイトル戦の直前に挑戦者が変更になることは異例。日本将棋連盟は「公式戦の終盤で、一手ごとに離席するなど疑義を招く行為があった」と話し、三浦9段が将棋ソフトを利用したとの疑いを抱いている。

 三浦9段は日本将棋連盟の聞き取りに対して疑惑をきっぱりと否定。「別室で体を休めていただけ」と説明したという。18日には三浦9段が声明を発表。「私がこれまで対局中に将棋ソフトを使用していたことは一切ありません」と改めて否定し、出場停止について「適正な手続きによる処分とは到底言い難い」と批判した。本当に不正があったかどうかはいまだ明らかになっていない。騒動が拡大した背景には、将棋の世界以外でもスマホの不正利用が問題になっている現状がある。

 大学受験の問題をインターネット上の掲示板に書き込み、書き込まれた回答を答案用紙に書くカンニング事件などが発生。全国の大学受験の試験場ではスマホの電源オフの徹底など電子機器の利用が厳しく規制されるように変わった。

 プロ棋士と将棋ソフトの対戦が始まったのもほぼ同時期である。将棋ソフトの進化の速さを踏まえ、こうした事態を日本将棋連盟が予想しスマホの利用を規制しておけば、今回の騒動は起こらなかったに違いない。