その点ではポナンザとの対局は相手がコンピューターですので感情も駆け引きもありません。長考することもなく一定のリズムで淡々と打ってきます。純粋な棋力勝負だったと思います。

 私は17歳からプロ棋士として活動していますが、自分が思っている以上に、純粋な棋力よりも駆け引きなど勝負の要素で戦っていたのだと痛感させられました。プロたるもの、本来なら棋力の比率がかなり大きくないといけないと思います。

 もともと将棋ソフトに勝てる自信があったかどうかですが、正直勝つのはかなり先になるとは思っていました。事前に将棋ソフトは少し触っていまして、その中で「ある形になるとこう指す」というパターンがあることに気付いていました。将棋ソフトといえど苦手な分野もあるのでしょうね。

 一方で、人間が考えない形勢判断を下してくることもあります。対人間用に乱数を使ってどの戦法にするかを予測できないようにしているのです。このためこちらの思惑通りにはいかない局面もあります。

 今回の対戦を前に、将棋ソフトに勝ちやすい方法を、協力してくださった方が調べてくれていました。ですが、実際には戦った2局ともその方法は取りませんでした。なぜなら、わざと歩をあげて取らせるなど、プロ棋士同士の対局ではまずあり得ない手順だったためです。

 将棋では意味のある損もありますが、調べていただいたソフトに勝つための方法は意味がありません。意味のない戦略が有効なのは、将棋ソフトのバグによるものなのでしょう。

 それでも絶対に勝てるならばプロとしてやるべきだという考え方もあると思いますが、やったとしても将棋ソフトがその手に乗ってくる確率は30~50%ほどしかありませんでしたし、乗ってきたとしても形勢はまだ五分五分です。そうした戦い方に抵抗があったのも確かです。