時に時勢に見放され、時に敵襲に遭い、時に身内に裏切られる――。栄華興隆から一転して敗戦に直面したリーダーが、おのれの敗因と向き合って問わず語りする連載「敗軍の将、兵を語る」を、「日経ビジネス」(有料)では原則毎号掲載しています。連載の魅力を知っていただくために、2018年3月の月曜から金曜まで、過去2年間に登場した「敗軍の将」たちの声を無料記事として転載・公開します。

(日経ビジネス2016年11月7日号より転載)

追記:本記事中に「日本将棋連盟」が「三浦弘行9段に対して、12月31日まで公式戦の出場停止処分にした」「本当に不正があったかどうかはいまだ明らかになっていない」とありますが、2017年12月26日に日本将棋連盟が設置した第三者調査委員会(委員長:但木敬一弁護士)が「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と発表しています。上記事実が明らかになっていたにも関わらず、注記や訂正することなく記事を再録してしまいました。お詫び申し上げます。

将棋のプロ棋士である山崎隆之8段は、第1期電王戦で将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」と対局した。結果は2局ともポナンザが勝ち、その実力を知らしめた。山崎8段は将棋ソフトの活用が進めばパターンが偏り、将棋の幅が狭くなることを危惧している。

[日本将棋連盟 プロ棋士]
山崎隆之氏

1981年生まれ。広島県出身。98年に4段へ昇格しプロ入り。現在8段。優勝回数は6回で、新人王戦、早指し新鋭戦、NHK杯戦など。2015年の第1期叡王戦で優勝。2016年の第1期電王戦は棋士代表として将棋ソフトと戦った。

SUMMARY

叡王戦と電王戦の概要

2015年6~12月にかけて新たな公式戦の「第1期叡王戦」が行われた。第1期叡王戦の優勝者は、将棋ソフト同士が争う第3回将棋電王トーナメントで優勝した将棋ソフトと対戦する「第1期電王戦」への出場が決められていた。叡王戦優勝者の山崎隆之8段は2016年4~5月にトーナメントに優勝したポナンザと2局対局、いずれも敗戦という結果に終わった。

 2015年12月に決勝が行われた第1期叡王戦で私は優勝し、2016年4~5月に開催された第1期電王戦で将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」と2局対局することになりました。

 対局前には将棋ファンの方から、ぜひ将棋ソフトに勝ってほしいと言われました。しかし結果は2連敗で、内容的にも完敗でした。勝つことを期待してくださっていた将棋ファンの方には残念な思いをさせてしまい、申し訳ない気持ちです。

 初めての将棋ソフトとの対局でしたが、内容を振り返るといろいろな気付きがありました。一番大きく感じたのは「将棋」と「勝負」の違いでした。ここで言う将棋は純粋な棋力のことです。自分の手が最善なのかを考えながら、正しいと思った手を指せるかどうか。自分と向き合う作業とも言えます。

 ただ、プロ棋士同士の対局の場合、勝ち負けは棋力だけでは決まりません。相手の顔色をうかがったり、醸し出す雰囲気を読み取ったりします。自分だけの考えではなく、打つ時間を取って相手との間合いを図ったり、相手が嫌がるだろう手をあえて打ったりという駆け引きもあります。そうした行為が大きく勝ち負けに影響します。