時に時勢に見放され、時に敵襲に遭い、時に身内に裏切られる――。栄華興隆から一転して敗戦に直面したリーダーが、おのれの敗因と向き合って問わず語りする連載「敗軍の将、兵を語る」を、「日経ビジネス」(有料)では原則毎号掲載しています。連載の魅力を知っていただくために、2018年3月の月曜から金曜まで、過去2年間に登場した「敗軍の将」たちの声を無料記事として転載・公開します。
(日経ビジネス2017年5月29日号より転載)
パチンコホール大手のべラジオコーポレーションにサクラ疑惑がふりかかった。店長が金銭目的で私的に行ったものとみられるが、ネット炎上や銀行の融資一時停止など大きな影響があった。該当者への刑事告訴を検討するほか、再発防止に向けた取り組みを始めた。
[ベラジオコーポレーション社長]
吉田拓明氏
1976年生まれ。福井県出身。2008年2月に大阪府を中心に21店舗のパチンコホールを運営するべラジオコーポレーションに入社。10年10月に常務取締役に就任。その後、12年に専務取締役に昇任し、16年4月から現職。
SUMMARY
べラジオ「サクラ」疑惑の概要
パチンコホールを運営するべラジオコーポレーションはべラジオ横堤店の店長を懲戒解雇した。当たりやすいスロットマシンの台情報を外部に漏洩し、その台を打った人が得た利益を折半した疑いが強まったためだ。きっかけは外部からの通報だったが、同様の情報がネット上で公開・拡散されたことで「サクラ」疑惑があるとして炎上した。
パチンコホール内や駐車場に設置している監視カメラのデータからサクラを疑われる人物を絞り込んだ。その人物が遊技したのは、店長が「故障台」などの張り紙でほかの人が遊技できないようにしていた台だった(写真=時事)
パチンコホールにあるスロットマシンには、メダルの出やすさを何段階かに変えられる「設定」という機能があります。当社の元従業員で店長を務めていた人物が、スロットマシンの設定を出やすく変更したうえで、その情報を外部に漏洩した疑いがありました。
本人は認めておりませんが、懲戒解雇処分にし、刑事告訴も検討しているところです。このような行為は到底許されるものではありません。当社の管理が行き届いておらず、今回の件を起こしてしまい、お客様や関係者に多大なご迷惑やご心配をおかけしたことを深くおわびいたします。
この件でパチンコホールに対するイメージが悪くなることは本意ではありませんし、経営者としての責任がありますので、今後の対策を含めて何があったのかをお話ししたいと思います。
事件が発覚したきっかけは2017年1月28日に届いた電子メールでした。内容は、べラジオの店舗の中に外部に設定を漏らしているところがあることを通報するものでした。すぐに各店舗で調査をしましたが、漏洩の事実は確認できませんでした。各店の店長を信じていましたし、このときはまさかそんなことは起こらないと考えていました。
その後2月1日に再び匿名のメールが届きました。今度は店舗名が名指しされており、漏洩の証拠になり得るLINEでのやり取りが書いてある画像も添付されていました。すぐさま該当店舗を再度調査するように指示しました。同時期、ツイッター上に店長とのやり取りを示した画像がアップロードされまして、大きな騒動になり始めていました。
車に近寄る不審人物
騒動で店舗全体の信用が落ち、お客様が来なくなることが一番怖かったです。またパチンコホールは行政から許可を得て営業させていただいているので、最悪の事態となれば、お店の営業停止とか、そういった部分にまで至るのではというのが頭をよぎりました。
2回目の調査の結果、店長が不正行為を行っていた疑いが強まりました。不正行為とは、出やすい設定のスロットマシンを自分が募集した人に遊技させ、利益を折半するものです。いわゆる「サクラ」です。
匿名で届いたLINEの画像には、どのスロットマシンが出やすく設定されているか、それを打って利益が出た場合は、利益の半分を駐車場のある車の中に入れるという内容がありました。
該当する日の駐車場の監視カメラを見ると、その車に近寄って何かをしている人物がいました。次に店内の監視カメラのデータや遊技データを出して、その人物が店内でどの台をどう遊技していたかを調べました。
すると該当台には、その日の朝は「故障台」など遊技できないことを示す張り紙があり、その人物が来店すると同時に店長がその張り紙をはがし遊技を始めさせたことが判明しました。同一人物が同じように台を遊技したり、車に近寄ったりというのが別の日にもありました。期間をさかのぼったり、別の人物に注目して調査したりすればもっと出てくるかもしれません。
すぐに店長を出勤停止にしました。またツイッターの投稿についてもネット上で拡散が止まらず、炎上していましたので、2月4日にホームページ上で調査をしていることとおわびを掲載しました。
会社からの聞き取りに店長は否認を続けていました。LINEに関しても、自分のアカウントが何者かによって乗っ取られて書き込まれたもので、自分は関知していないという説明でした。また、乗っ取られて調子が悪かったという理由で、LINEを利用していたスマートフォンはすでに機種変更し、データは一切残っていないと主張しました。
協議の結果、会社の風紀を著しく乱したなどの理由により懲戒解雇とし、その内容を2月8日にホームページ上で公開しました。
会社のお金を不正で得ているならば、横領や背任で懲戒解雇にしたかもしれませんが、スロットマシンの仕組み上その行為を明確に証明することは難しい状況でした。というのも、スロットマシンの設定は変更しても履歴が残らないものが大半だからです。会社のデータベースには設定履歴を記録していますが、仮にデータベースに設定2とし、実際の台には最高設定の6としても証拠は残らないわけです。これは業界全体の課題だと思っています。
1日数百本の抗議電話
ホームページ上で公開した日から、本社や該当店舗には1日数百本の抗議の電話やメールをいただきました。「やっぱりサクラをしていたのか」や「不正行為を行った人をしっかり処分してほしい」といった内容が多かったです。
並行して、様々な影響も出てきました。お客様が自分のパチンコ玉やメダルを景品に換えずにためておく「貯玉」という仕組みがあります。この貯玉が一斉に引き出されました。貯玉の額が増える日も減る日もありますが、全体で多くて1日数十万円ほどです。ところがこの時期は数日で500万円に相当する貯玉が減りました。失望したお客様が一気に引き出されたのだと思います。
さらに取引のある銀行から聞き取りをされました。該当店舗が営業できなくなるようなことが起こるのか、なぜこういうことになったのかを聞かれました。この銀行からは新規店舗出店の資金を借りる予定でしたが、様子を見たいということで融資はいったん中止になりました。新卒採用を予定していた学生の方のご両親からも心配だとの連絡をいただいたこともありました。あらためて会社の存続を揺るがす大きな事態だということを認識しました。
このようなことは二度と起こってはいけません。現在は再発防止策を施しているところです。例えば今回の問題になった設定に関しては、別の人物がダブルチェックを行う、定期的に第三者が店舗を訪れて、申告内容と実際の設定に違いがないか監査するということを始めています。
社員に対しても状況説明やセキュリティー監査について説明するとともに、二度とこのようなことが起こらないように私も含めて社員に徹底しているところです。
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