時に時勢に見放され、時に敵襲に遭い、時に身内に裏切られる――。栄華興隆から一転して敗戦に直面したリーダーが、おのれの敗因と向き合って問わず語りする連載「敗軍の将、兵を語る」を、「日経ビジネス」(有料)では原則毎号掲載しています。連載の魅力を知っていただくために、2018年3月の月曜から金曜まで、過去2年間に登場した「敗軍の将」たちの声を無料記事として転載・公開します。
(日経ビジネス2017年4月17日号より転載)
アフリカゾウの密猟が問題となり、象牙の取引を規制する国際世論が高まっている。既に国際取引は原則的に禁止。昨年には国内取引も禁止する動きが出てきた。象牙製品を製造する団体の会長は「象牙取引の全面禁止はむしろ、密猟を増やす」と反論する。

大熊俊夫氏
1948年生まれ。日本大学中退後、家業の大熊象牙製作所(東京都台東区)に入社。88年から同社の社長に就任。2008年、日本象牙美術工芸組合連合会の専務理事に就任。12年6月から現職。
象牙取引規制の概要
象牙目当てのアフリカゾウの乱獲、密猟が問題となり1989年、ワシントン条約で象牙の国際取引の原則禁止が決まった。その後も規制強化の国際世論が高まり昨年10月、ワシントン条約締約国会議で各国に象牙の国内市場閉鎖を求める決議を承認。これに先立ち中国や米国が国内市場閉鎖を決めたこともあり、象牙取引を続ける日本は非難を浴びている。

象牙を目当てにしたアフリカゾウの密猟が問題になっている
日本には象牙工芸品の歴史が古くからあります。奈良時代に建造された正倉院の宝物の中にも象牙工芸品が含まれています。江戸時代には根付け、くし、三味線のバチ、印ろうなどの生活用品としても使われていました。象牙の印鑑は高級品として、今でも所有者のステータスの高さを示すものです。
ですが、象牙取引を巡る環境は年々、厳しさを増しています。1990年以降、国際取引が原則禁止になりました。それまでに日本が輸入した象牙と、特例措置で99年と2009年の2回に輸入した象牙のみが国内での取引が可能な状態になりました。私たちのような象牙製品の製造業社は限りある素材を使って、製品を作るしかありません。
既に苦しい状況に追い打ちをかけるようにして、昨年10月には国内市場の閉鎖をも求める動きが国際的に起きました。そうなれば当然、経営は成り立たなくなります。
象牙取引を禁止するのは世界的な潮流です。アフリカゾウの密猟を撲滅するため、象牙取引を全面的に禁止しようという流れです。ですが、果たしてどこまで実効性があるのか、常日ごろから疑問に感じています。
かつて米国で施行された禁酒法と同様に、法律で禁じることでむしろ、ブラックマーケットを生み出すことになると思うからです。
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