時に時勢に見放され、時に敵襲に遭い、時に身内に裏切られる――。栄華興隆から一転して敗戦に直面したリーダーが、おのれの敗因と向き合って問わず語りする連載「敗軍の将、兵を語る」を、「日経ビジネス」(有料)では原則毎号掲載しています。連載の魅力を知っていただくために、2018年3月の月曜から金曜まで、過去2年間に登場した「敗軍の将」たちの声を無料記事として転載・公開します。
(日経ビジネス2017年9月18日号より転載)
サッカーJリーグの放映権を獲得し、注目を集めたスポーツ映像配信サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」。しかし、Jリーグが開幕した2月25日から2日間にわたって配信トラブルを起こした。同社のジェームズ・ラシュトンCEOは「このような問題を引き起こし、がっかりした」と問題を振り返った。
[DAZN(ダ・ゾーン)CEO]
ジェームズ・ラシュトン氏
1978年生まれ。大学卒業後、99年英バーミンガムシティフットボールクラブに入社。コマーシャルディレクターを務め、2003年に英動画配信大手パフォームグループに入社。15年より、同グループが運営するダ・ゾーンCEOに就任。
SUMMARY
ダ・ゾーン配信トラブルの概要
ダ・ゾーンは2016年7月、これまでスカパーJSATが獲得していたJリーグの放映権を取得した。17年2月25日から放映を始めようとしたところ、映像が正常に配信されず、翌26日にもライブ配信が視聴できない事態が発生。3月2日に配信トラブルの原因を公表したが、8日には一部の会員にサービスの退会が完了したという内容のメールが送られる不具合も起きた。
3月2日に発表したプレスリリースを通じて、2月25、26日に発生した配信トラブルの原因と対策を説明した
Jリーグが開幕した時に残念な不具合が生じてしまいました。自分たちがこのような問題を引き起こしてしまったことに対し、非常にがっかりしています。
一連の問題は、もちろんあまり体験したくなかったことです。スポーツファンからも「がっかりした」という声を聞きました。ただ1週間後に、「この問題を解消してくれてありがたい」「正直に問題を公開し、透明性をもって、スポーツファンにコミュニケーションをしてくれたことはありがたい」というようなフィードバックも頂きました。
スポーツファンのほか、NTTドコモなどのパートナー、Jリーグの方々からは温かい言葉を頂きました。問題が起きないことが一番よかったのですが、きちんと対応できてよかったと思っています。今回の問題からは、技術的な点だけでなく、トラブルにどのようにして対応していくかなど、非常に多くのことを学べましたから。もちろん同じような問題は二度と体験したくありませんが。
技術的な点についての詳細は割愛しますが、根本的な部分に問題があったわけではありません。中継・制作された映像データを複数のデバイス向けに変換する「エンコーディングプラットフォーム」の設定の仕方に少し不具合が生じてしまいました。これによって、データベースに不具合が生じ、正常に試合のライブ配信や見逃し配信ができなくなりました。今回のような事態は、二度と起こしてはいけないということを教訓として学びました。
退会メールに関しては、対応の仕方に学びがありました。プレスやパートナーは、当社がオープンにこの問題に対応したことを評価してくれました。プレスに対しては記者会見を開き、サービスの利用者に対する補償もきちんと進めました。
対応急ぎすぎは教訓
メール問題は、少し対応を急いでしまったことが原因です。利用者には「無料視聴期間を延長して、1カ月間ダ・ゾーンのサービスを追加で継続してお使いいただけます」というメールを送るつもりでした。しかし、(利用者情報を管理する)データベースを使ってメールを配信する際に、送信先とメッセージの内容が間違ってしまったことで、サービス退会のメールが配信されてしまいました。結果として、継続使用が可能という内容のメールを慌てて送らない方がよかったという事態になってしまいました。
とはいえ、今回の問題をきっかけに、マネジメントスタイルを変えたという事実はありません。ただし、プラットフォームに関しては、(複数の処理を1つにまとめる)プロシージャーをしっかりとさせ、フォーカスを当てないといけないと感じています。例えば(稼働中のシステムで問題が発生して、システムが停止したときに、待機システムに切り替える)フェイルオーバーの再発対策として、ハードウエアとソフトウエアに対する投資を増やすことに決めました。バックアップやリカバリーに関するテクノロジーを堅牢にし、プラットフォームを改善します。
ダ・ゾーンの契約会員数は100万人を超えました。この数は予想していたところに着地したという印象です。堅調に進んでいます。当社のビジネスモデルは、ビッグデータを分析し、調査をした結果に基づいて展開しています。ビッグデータを活用したモデリングなどの分析結果が証明された結果になりました。でも登山に例えると、やっとベースキャンプに到着できたという位置で、登頂するにはまだまだ先は長いです。
当社のようなスポーツ放映サービスは、映画のようなエンターテインメント業界に比べて、放映権を独占的に購入することができます。買ってきたコンテンツを、何百万人というユーザーに独占的に提供することができるわけです。それをお手ごろ価格で、アクセスしやすく、そして通常のテレビよりも見やすい形で提供できれば、スポーツを見たいと思う人は、当社のサービスに加入してくれると思います。
利用者と共にサービス進化
日本ではコンテンツにさらなる投資をしたいと考えています。日本で一番人気のあるスポーツは野球だと思いますが、まだ広島東洋カープと横浜DeNAベイスターズの試合しか用意できていません。高校野球の放映権はまだ獲得していないので、取りたいですね。もっと多くの野球の試合をこれから放送していきたいと考えています。
2019年にはラグビーのワールドカップ、20年には東京五輪が開催される予定です。これらに関連するコンテンツも拡充していきたいです。五輪では、日本選手が勝つ可能性が高い種目に対するユーザーの興味は高まっているようです。
最近はコンテンツの拡充に力を入れる ●ダ・ゾーンの主な出来事 |
2016年 7月 |
Jリーグと放映権契約を締結 |
8月23日 |
ダ・ゾーンのサービス開始 |
2017年 2月8日 |
NTTドコモと提携 |
2月25日 |
Jリーグ開幕、映像が正常に配信されないトラブルが発生 |
2月26日 |
25日に続き、ライブ配信が視聴できず |
3月8日 |
一部会員にサービス退会完了メールが送られる不具合 |
4月2日 |
Jリーグの複数の試合を1画面で視聴できるサービスを開始 |
6月15日 |
欧州サッカー連盟が主催する「UEFAチャンピオンズリーグ」などの独占放映権を獲得 |
8月 |
サッカーの17~18年シーズンにおける英国「プレミアリーグ」の放映と、ドイツ「ブンデスリーガ」の独占放映を発表 |
8月29日 |
会見で契約会員数が100万人を突破したと発表 |
コンテンツの拡充だけでなく、サービスの改善にも力を入れています。利用者の声を聞き、どこに製品の改善が必要か、投資を強化すべきかを考えています。既に取り組んでいることの一つは、画質の改善です。インターネットで必要とする帯域を少なくしつつ、画質を向上させました。(映像の再生開始前などに、映像データをため込む)バッファリングは少なくなり、映像の立ち上げにかかる時間が早くなり、ユーザーにメリットを提供できています。
Jリーグが開幕する来年度ぐらいには、利用者から要望のあったダウンロード機能をリリースしたいと考えています。この機能によって、例えば夜に開催された試合をスマートフォンやタブレットにダウンロードして、朝に見ることができるようになります。
こうした声をオープンに聞き、機敏にリクエストを実現するように努めていきます。ユーザーと一緒にサービスを進化させていくことが、当社にとって非常に重要だと考えています。
Powered by リゾーム?