処遇は一番わかりやすい指標の1つです。このことからも、「モノづくり」だけでは今後、勝ち抜くのが難しいことがわかります。しかし、日本の「モノづくり」企業の経営者たちは、同じことをして伸び続けてきたので、そのままでは行き詰まることを受け入れるのが怖いのか、状況が見えていないのか、社会システムやその仕組みを作り上げることや、その手段となるITへの感度が鈍いのです。
ITを経営革新に使う世界、業務の効率化にとどめる日本
ITというと、米国をはじめとする世界の先端的な国々では、経営を革新するための手段と捉えています。ITによって、これまで実現できなかった仕組み価値を生み出すといったように。
これも以前のコラムで何度も出ていることですが、欧米に対して、日本では、いまだに生産性の向上が、ITの活用の主な目的にとどまっている企業が多いのです。なんらかの作業を省人化したり、効率的に共有したりするといったコスト削減用途です。
姿勢の違いは、例えば投資の違いにも現れます。経営革新のためにITを使う米国などの企業は、中長期的な競争力に直結しますので、直近の業績に左右されず、毎年のように一定額をITに投資します。
これに対して、日本の企業の場合、直近の業績によって、ITへの投資を絞ることが多い状況です。メディアへの広告宣伝費を減らすのと同じ感覚で、「負担」と考えていることが想像できます。ITの位置づけや活用の手法の違いがわかる例です。
また、誤解を与えそうなのが、世界経済フォーラムが発表している「世界のIT白書(The Global Information Technology Report)」における「IT競争力ランキング」です。2015年の日本は10位と、実態に対して過剰に高い順位のように感じました。
安定した高速インターネット網の整備などが評価されているようですが、1~9位までの国の現状とは、大きな差があります。実際に、IT関連の貿易ランキングでは、大きく順位が下がります。しかも、ソフトウエアの輸出入の収支で見ると、輸入が圧倒的に多い状況です。
IoTで世界は基盤を共通化、日本は個別化
ITに関する取り組み方の違いは、IoT(モノのインターネット化)でも変わりません。IoTは、これまでITが関わってこなかった環境、例えば、生活環境や街中、企業の事業所や工場、ビル、自然環境などの状況を、ITで見えるようにすることで、新たなサービスや仕組みを作り上げようとするものです。パソコンなどで人間が入力した情報だけでなく、環境中にばら撒かれたセンサーが自動的に入力した情報を活用します。
IoTによって、ビジネスのルールが変わると考えている経営者は、世界の約68%に対して、日本は約16%という差があります(米アクセンチュアの調査)。これもITを、経営や事業の革新の手段と考える世界の経営者と、業務の革新や付加価値の追加程度に考えている日本の経営者の違いによるものと想像しています。
さらに危機感を感じるのは、IoTの世界では、自社だけで取り組むことができる企業は、世界を見渡してもほとんどないのに、日本のIT関連企業は単独で取り組んでいるように見えることです。
Powered by リゾーム?