「こだわる方向」に「こだわる」べき

田中芳夫・東京理科大学大学院教授
田中芳夫・東京理科大学大学院教授

田中:アップルとの差でも、指摘された部分ですね。品質ではなく、使い勝手などが勝負になっているのに、日本メーカー製の方が音が良いなどとこだわってみたり。

土屋:日本には、「こだわり」という言葉が溢れています。工業製品でも、料理でもそうかもしれません。「こだわり」は必要ですが、「こだわり過ぎ」は必要ありません。

 こだわり過ぎないことと、「こだわる方向」にもこだわれば良いのです。市場と対話し、その反応への対応にこだわるとか、こだわる方向を考えるべきでしょう。

 テレビの例で言うと、現在のテレビ番組の視聴者は、「テレビ」という製品で観ることには、こだわっていないかもしれません。テレビ番組を含む動画は、パソコンでも携帯端末でも見ることができる上、プロが作った番組ではなく、素人が撮った動画が多く視聴される時代です。そうした時代になっているのに、日本のテレビメーカーは、瞬時にチャネルを切り替えられるといった部分にこだわり、従来の日本市場のテレビ受像機の枠から離れられないのかもしれません。

 エマソンにも、こだわりの失敗例がいくつもあります。主力分野の1つに、空調機向けのコンプレッサー(圧縮機)があります。空調機やヒートポンプ内に組み込まれて使われています。

 日本の空調機の場合、このコンプレッサーをインバーター(直交変換器)を使って制御しています。通常のコンプレッサーのオン・オフの制御だけでなく、モーターの回転数を変えることで、コンプレッサーを細かく制御できます。これによって、効率的な温度設定が可能になります。日本のように電気料金の高い国では、こうした制御が有効です。

 エマソンはアジアで拡販する際、インバーターを使うほどには細かく制御できないけれど、コストが安いスクロールコンプレッサーにこだわってきました。技術にも自信がありコストと仕様のバランスで、アジアではこの方が受け入れられると考えたからです。

 しかし、現在では、日本メーカー流のインバーターを使った空調が広がってきています。アジアにおける日本の成功モデルの1つです。こだわりが市場を見誤ることをわれわれも経験してきました。

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