経営スタイルの違いがもたらすもの

田中芳夫・東京理科大学大学院教授
田中芳夫・東京理科大学大学院教授

田中:土屋さんは、「ものこと双発協議会」の立ち上げ時からの参画メンバーの一人です。当時、外資系企業としては唯一の企業が、日本エマソンでした。

 日本のものづくり企業だけで議論していては、広がりに限りがあると思いますし、土屋さんは前職の三菱商事時代、人事などに従事していた経験があり、ものづくりだけの経験者にはない視点があり、議論を豊かにして頂いています。

 日本の企業は、「もの」については真摯に取り組みますが、「こと」への取り組みは疎かに見えます。外資系企業の中からは、どのように見えるのでしょうか。

土屋:まず、日本と海外の企業経営のスタイルの違いが影響しているように見えます。米国企業の絶対的なキーパーソンは、CEOです。トップに立つ人間が、正しい方向にゴールを設定し、その方向に進むように強く指示します。

 方向づけをするだけでなく、レビュー(評価)や、チェック(修正具合の確認)を怠りません。このプロセスをシステム化して取り組んでいくことで、企業はその方向に動いていきます。これが、米国企業の特徴です。

 日本企業も、ある程度、これに近い方法を採っていると思いますが、こうした仕組みで経営を強力に進めていく前提となる経営スタイルが違います。日本企業の方が、良くも悪くも民主的です。米国企業は、民主主義というよりも、絶対君主制に近いのです。「絶対君主的なCEO」が、正しい方向に向かわせるスタイル、これが海外企業の成功の一つの理由ではないでしょうか。逆目に出るととんでもないことになります。

 例えばエマソンは、現在のCEOが15年間で、売上高を50%以上伸ばしましたが、同じように大幅に成長した大規模な企業は少なくありません。ゼネラル・エレクトリック(GE)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などが代表的で、いずれも経営スタイルや体制は似ています。

 進むべき方向に対して、事業部などが自らの都合やエゴを主張するのは、日本も海外も変わりません。これをしっかり抑えることが、ある段階では必要です。

 議論を重ねた上で、強いCEOが、正しい方向を打ち出した後は、他の経営幹部の仕事になります。単なるCEOへのイエスマンではなく、打ち出された方向の意味を解釈しながら、それをフォローして肉付けしていきます。CEOが骨組みを作り、経営幹部が肉付けして、すべての事業ユニットを目指す方向に導いていくのです。こうした人材をいかに多く持つのかが、成功する企業の特徴だと感じます。

株価の下落から「ことづくり」へ

土屋:米国企業が、企業のグランドデザイン(骨格)を議論する場は、取締役会です。下から上がってきた案件を承認するだけではなく、大きな課題や問題点を取締役会で議論します。圧倒的に社外取締役が多い取締役会の中で、闊達な議論が交わされます。ここでは比較的、民主的に議論されます。

 社外取締役というと、CEOの友人ばかり選任される印象があるかもしれません。そうではなく、CEOを解任する権限も持ちますので、正しい方向性を議論できる高い見識が求められます。

 エマソンの場合、ものづくりで成功したために、ブランド力もあり、とくに新興市場への浸透で大きな成果が得られていました。成功が大きかったがために、先進国の市場における「ことづくり」への動きに、なかなかついていけなかった面があります。

 こうした状況では、米国的な考え方ですが、漸進的に改善策を講じるのではなく、必ずしもうまく運営できていない事業を、売上高、利益ともに確保できているうちに売却して資金を得て、自分たちが経営すれば業界トップを獲得・維持できる分野に経営資源を投じます。

 このように会社を方向づけ、顧客との接点をより太くする、幅広くするような取り組みに注力しています。

 また、事業をよりスリム化、集約化することによって、タコツボ型の経営ユニットではなく、より横方向の組織で連係しやすい方向に変えていきます。これによって、他の分野の技術、経験を、違う部門と融合することで新たな「こと」を実現できる、といった発想が生まれやすくなります。

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