製造業のグローバル化によって、「ものづくり」だけにこだわった事業や開発で、先進国の企業が勝ち抜くのには限界が見え始めています。「ものづくり」と「ことづくり」の両方を高いレベルで揃えることが、持続的な競争力を身につけるカギとなります。技術や製品を生み出すのが「ものづくり」、技術や製品、サービスを使って、これまでにない生活や社会のスタイルを生み出すのが「ことづくり」です。
この流れは、日本企業だけに限りません。米国をはじめとする他の先進国の企業の中にも、「ことづくり」の強化を目指し、模索している企業があります。こうした企業の1つが、米エマソン・エレクトリックです。今回は、日本法人である、日本エマソンの顧問で前日本代表であった土屋 純さんに、エマソンにとっての「もの・ことづくり」について伺います。土屋さんは、「ものこと双発協議会」の理事として議論に参加いただいています。
田中:エマソン・エレクトリックは、電子機器メーカーとして、世界で高い地位を築いている米国の企業です。もったいないことに、日本においては、一般的には広く知られていない状況です。

土屋:エマソンは、1890年に設立されました。日本では明治時代、米国では南北戦争が終わってから約30年後の時期です。日本では、創業から数百年の歴史を持つ企業も少なくありませんが、日本に比べて短い米国の歴史の中では、古くから操業していた企業です。
本社は、米国中部に位置する、セントルイスにあります。創業当時のセントルイスは、全米で4位の人口の規模を誇る街でした。ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアの次が、セントルイスでした。ミシシッピ川を渡って西部の開拓に向かう人たちが、開拓に必要な資材などを仕入れる場所の一つが、セントルイスでした。
エマソンは、モーターで創業しました。モーターは、発明者が特定されていません。電球のトーマス・エジソン、電話のアレクサンダー・ベルというように、一人の発明者が生み出したものではなく、同じようなアイデアを持つ多くの技術者が、同時多発的に発明して生まれたとされています。モーターを発明したと主張している会社の一つが、エマソンです。
世に出た当初、モーターは農家ならばポンプに応用し、地下水を汲み上げて畑に散水したり、収穫物などを集める際のベルトコンベアーに応用したりするなど、画期的な製品で、社会を一変させました。
米国の西部開拓といっても、西部劇をイメージする時代ではなく、産業や人口がどんどん西部に移っていく時代ですが、例えば、カリフォルニアで鉱山の開発が盛んになりました。採掘や収集にモーターを応用するため、セントルイスで調達して、現地に持ち込むといった需要を取り込むことを契機に、発展してきました。
現在、売上高は約250億米ドル規模で、世界中に200の製造拠点を持ち、150カ国以上で事業を展開しています。祖業であるモーターの事業は、2010年に日本電産に売却しました。元々の本業を手放し、新たな事業を伸ばしている電機メーカーとなっています。
エマソンには、課題もあります。まさに、「もの・ことづくり」に関するところです。
危機感を抱くきっかけは、2011年度以降売上高が伸び悩み、2013年からは株価も低迷していることです。ものづくりで、一定の成功を収めてきたと評価されている企業ですが、それだけで伸びていくことが難しい時代に入っていることを、突きつけられています。
2000年からエマソンの最高経営責任者(CEO)を務めているDavid Farrは、就任してから売上高を50%以上伸ばし、250億米ドル規模の企業に育てました。しかし、ものづくりだけでは限界を感じるような局面に入ったことで、「もの」だけではない方法で、いかに市場に深く浸透していけるかを模索しています。
日本のものづくり企業と、同じような時期に、同じような問題意識を抱えているといえるかもしれません。
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