前編に続き、産業技術総合研究所(産総研)の理事兼イノベーション推進本部長である瀬戸政宏さんと、「ことづくり」への取り組みや、その課題を探っていきます。瀬戸さんには、「ものこと双発学会」の理事として議論に参加いただいています。(2月27日に東京飯田橋で開催される、ものこと双発学会の年次研究発表大会についてはこちらをご覧ください。学会員の研究論文の発表と協議会の議論の報告を行います。皆様もぜひご参加ください)。
田中:産総研と企業の連携が限られていたのは、企業側の問題もあるかもしれません。日本企業は、自前主義が過剰に強い場合が多く、外部とうまく連携しないで取り組むことが多かった影響がありそうです。自社で何でもこなし、外部と組もうという発想が企業側に乏しいのです。産総研のイノベーションコーディネーターに本当に求められる役割は、連携に慣れない企業間を、横串でつなぐことかもしれません。

瀬戸:その通りです。われわれの狙いは、企業の要望をすべて受けることではなく、「ありません」、「知りません」、「できません」と答えないことなのです。産総研内にはないけれど、この大学やこの企業には、最適な技術や研究者がいるので、紹介しましょうなどというように広げていきます。
このように、産総研に聞けば、何らかの答えが得られるようにし、企業からの信頼度を上げたいと考えています。これが、ひいては、産総研と連携してもらいやすくなることにつながります。時間はかかりますが、日本全体のネットワークをつなげるようにできたらと思っています。
田中:米国のベンチャーキャピタルなどは、そのような役割の一端を担っています。どこにどの技術があるか、広く知っていて、どのように組み合わせれば実現できそうか、提案できます。1つの技術だけで取り組んでいても限りがありますので、社会に問えるための仕組みを作り上げるのです。
「こと」の提案が産総研に求められる
瀬戸:「ことづくり」に関連するところでは、イノベーションコーディネーターが全員集まるマーケティング会議での議論があります。企業を訪問して技術を提案しても、それは「もの」を押し売りしている状態でしかありません。その企業に新たな価値を与える「こと」の提案が求められているのでは、という議論が必ず出てきます。
それが産総研の我々にできるのかどうかが問われます。企業の次の展開を、研究所の研究者風情が提案できるのでしょうか。わたし自身も、その状況になったら、自分で企業に提案するのは、恐れ多くてはばかられるかもしれません。
それでも、企業は、それを待っているかもしれません。少なくとも、企業がこの議論に産総研も入ってくれないかと、頼まれる状況に引き上げることが重要で、そうした姿を目指していきます。
今すぐに、コンサルティング会社が実現しているようなことはできませんが、産総研の幹部クラスの経験豊富な研究者には、企業からこうした議論に加わってもらいたいという要望が来ているので、2015年からコンサルティング業務をはじめています。これも数年後に、花開いてもらいたいことの1つです。
事務的な業務を担う職員の中にも、イノベーションコーディネーターのような役割を担える人が出てきています。こうした人たちの育成に向け、例えば、海外の企業との連携に注力している研究機関に派遣し、肌感覚として身に付けてもらうことも計画しています。
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