研究所を本社に移転

 そこで、研究所の場所や仕事のスタイルも変わってきています。IBMでは、研究所も、研究所だけで閉じて仕事をするのではなく、事業部門はもとより、お客様、パートナー、大学、政府機関といったところとの積極的な協業や共創が強く求められています。日本でも、「IBM大和研究所」として、典型的な独立研究所として25年間、活動を展開してきましたが、昨年、本社に移転して「IBM東京ラボ」となりました。これも、IBM全社の大きな変革の一貫ですし、「もの・ことづくり」に効果的につながるような、新たな研究開発体制とするためです。

 IBM東京ラボでは、ワトソン、IoT、ヘルスケア、クラウドといった冒頭御紹介した新しいIBMの事業エリアの中のいくつかに力を入れています。ワトソンの研究開発ラボも、本社の中にありますが、従来のIBMの研究開発のオフィスとは、全く異なったコンセプトで設計されています。

 ワトソンラボのオフィスは、研究者や開発者だけでなく、コンサルタント、営業、お客様、スタートアップ、学生といった、様々な所属、職種、バックグランドの人たちが、物理的に集まり、自由に議論をしながら、新しいビジネスを作り上げていくオープンラボになっています。

 「わいがや」のような状況を生み、デザインシンキングと呼ばれる手法で、ホワイトボードに書き込んだり、そこにポストイットを貼り付けたりしながら、市場や社会の動向、新しい顧客体験の設計、ビジネスモデルの構築などを進めていきます。プログラマーやエンジニアも、議論に参加し、そのかたわらで、先ほど御説明したBluemix上でワトソンやIoT、モバイル、ソーシャルのAPIを組み合わせて、アイデアを具現化していきます。

 銀行のオンラインシステムなど、従来の基幹ITシステムは、数百人、数千人といった規模で、数年間かけて、計画、設計、開発、構築、テスト、運用ということになります。そのようなシステム開発は、これまでどおり重要です。ただ、ITの第4の波のモバイル、ソーシャルまたワトソンに代表されるコグニティブについては、とにかく早いタイミングで動くものを作り、短いサイクルを迅速に回しながら改良していくアジャイル開発が大切です。そこでは、研究者、技術者、エンジニアだけでなく、ビジネスモデルや現場や市場の専門家も加わって、1つのものを作りあげていくことが不可欠になるはずです。

 ただし、アジャイルを成功させるためには、研究所の立地やオフィス環境といった外部要因も関連しますが、当に大切なことは、やはり人です。オープンに協業し「もの・こと」を創りあげる風土を主導できる人です。コミュニケーション力、発想力、パッション、ビジネス思考力、テクノロジー力などが必要です。

 また、日本の技術者は、アイデアベースでの提案や議論は苦手で、「もの」を作って「実証」してからでないと自信を持って発言できないといったことがあります。IBMでは、GTOやイノベーション関連の議論、デザインシンキングでは、自由に新しい発想でアイデアを人に話して共有して、そこから更に新しい発想をするということが期待されていますが、日本の技術者や研究者は、十分に活躍できないケースもあります。

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