日本でも、ワトソン・エコシステム・プログラムで協業できるスタートアップ企業などパートナーを広く募集しています。このように、「ことづくり」のためには、「もの」が要ります。また、1企業だけではできません。日本でも、負担が少なく事業が開始できるなど、多様な手法を検討しています。

ベンチャーは育てサポートする

田中芳夫・東京理科大学大学院教授
田中芳夫・東京理科大学大学院教授

田中:オープンイノベーションの必要性が主張されてから、約10年経ちます。IBMや米ゼネラル・エレクトリック(GE)など欧米の企業は、他者をうまく活用し、ベンチャー企業と一緒に取り組むといったことに長けています。一方、日本企業の多くは、自己完結型で他者との取り組みを苦手としている気がします。

久世:ベンチャー企業やワークショップを活用する以前に、企業同士の連携でできることも多くあると思います。欧米ならば、同業他社とも連携や協業します。例えば、半導体メーカー同士といった同じ業種であっても、その中での技術的およびビジネス的な強み弱みを、それぞれの企業が認識することにより、効果的に提携するケースもあります。日本では同業種同士の連携は、限られているように見えます。

田中:オープンイノベーションは「2.0」という段階に入っています。企業間などの取り組みではなく、個人間の連携で生み出されたものを、企業がどのように事業化、アセット(自社の資産)化するかに移ってきています。共有の場で議論したことを、それぞれ持ち帰って自社に適用していくイメージでしょうか。

久世:企業間の連携の多様性だけでなく、個人レベルのアイデアも活用していく段階は、日本の場合、さらに難しいかもしれません。ベンチャー企業を育て、サポートしていこうという風土も、もっと作る必要があります。

田中:しかし、IoT(あらゆる環境やものがインターネットに接続され、デジタルデータとして扱われる環境)の時代には、個人がどんどん開発できるようになるので、それを1社の中ですべて自製することは、難しくなるでしょう。社外、それも個人のアイデアを、いかにうまく使って、自分の会社でアセット化していくかが問われそうです。

久世:御指摘のとおり、企業内だけで人材を取り揃えるのは難しくなります。IBMでは、研究開発をアジャイル(迅速な開発を実現する手法)化するだけでなく、企業全体の活動をアジャイル化して、新たなアイデアをすぐに取り込み、実行に移せる環境を重要視しています。

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