そのIBMで、私は日本における研究開発を担当しています。IBMの研究開発は、各国や各地域の特性を最大限に活用することが求められています。戦略、予算、計画などは、グローバルで統括されており、世界中の研究所と連携しながら研究開発を推進しています。IBMの研究所には、コーポレートに直結した基礎研究所と、製品を中心とする事業部に所属する開発研究所の2種類があります。我々、日本の開発研究である東京ラボには、その両方があります。

10年以上続いた事業部体制を改革

 ここにきて、IBMは更に大きく変革しようとしています。その象徴的な出来事は、10年以上続けてきた事業の体制を2015年1月に大きく変えたことです。「もの・ことづくり」に関係する話なので、紹介したいと思います。

 これまでは、ハードウエア製品事業、ソフトウエア製品事業、インフラストラクチャー関連サービス事業、アプリケーション(業務ごとの応用システム)関連サービス事業という、4つで構成されていました。

 昨年1月の事業変革で、二つのサービスの事業以外は、大きく変わりました。まず、ハードウエアとソフトウエアのそれぞれの事業を廃して、両者を組み合わせたシステムズ事業とクラウド事業の二つを新設しました。さらに、従来の製品の切り口ではないソリューション(課題解決)の単位で複数の事業を新設しました。ワトソン事業、ヘルスケア事業、IoT事業、アナリティクス事業などです。「ワトソン」は、データを深く分析して、自ら学習するシステムで、これらを事業に適用したコグニティブ・ビジネスを称しています。これらソリューションの区分は、「ことづくり」の対象分野と捉えることもできます。

 ハードウエアからソフトウエア、IT、クラウドコンピューティングを応用したサービスへと広がってきている中で、機器やハードウエアだけを提供する「ものづくり」のみでは、事業が成り立たなくなり、「ことづくり」の部分にも積極的に乗り出してきたことを象徴する事業形態の変遷だといえます。

田中芳夫・東京理科大学大学院教授
田中芳夫・東京理科大学大学院教授

田中:IBMは元々、システム寄りの事業に取り組んできました。お客さんのシステムを一括で請け負うような。いつの間にか、一部は単なる「もの売り」に近づいた場合もありながら、元々のシステム寄りの事業に戻してきた、という変化なのでしょうか。

久世:そう捉えることができるかもしれません。IBMは、1960年代に手掛けていた大型コンピューター「System/360」の時代から、システム寄りの売り方をしてきました。ITの第1の波である1960年代には、バックオフィス(管理業務)向けに、System/360を活用した在庫管理、顧客管理、生産管理などのシステムを提供してきました。この時代は、結果的に「ことづくり」を意識した「ものづくり」になっていたと言えます。

次ページ 課題解決型の新しいコンピューター