社員の視線は、「出荷」にまで向かい始めました。

 私たちの売り上げは、廃棄物を引き受けたときに受け取る対価だけではありません。例えば、雑多な金属を分別し、鉄スクラップなどのリサイクル金属として「出荷」すれば、そこにも対価が発生します。
 では、いくらで出荷できるのか。
 そこには相場があり、日々変動します。

 そこに目をつけた社員たちがいました。

工場見学者に金属の見分け方を説明する社員。この日の見学者は、星野リゾートの星野佳路代表(写真:栗原克己)
 

 金属系の廃棄物の処理を手掛ける彼らは、あるときから、スクラップを「売る時期」を、気にするようになりました。相場師のように市場の動向を見ながら、売るタイミングを見計らうようになりました。

 彼らは一見したところ、普通の作業員です。工場見学にいらしたお客さんに、よく金属片を打ち鳴らして見せ、どうやって鉄とアルミを見分けて分別するかなどを解説して、喜ばせています。そういう意味では、エンターテナーでもあります。

 しかし、その裏に、データの動きに細心の注意を払いながら決断を下し、利益を最大化する、知識労働者の顔も持っています。

 現場の社員がここまでやるようになれば、会社は強い。

 経営者の私の仕事は楽になり、彼らの仕事は楽しくなる。それが会社に、継続的な利益をもたらすのですから。

数字が分かれば、仕事はぐんぐん楽しくなる

 かつて私は毎月、スクラップの単価表をしっかり読み込んでは、現場に出向き、「これは今、高い」「あれは安い」などと、こと細かく指示していました。けれど今は違います。

 スクラップの単価表は、年次でしか見ません。月次の単価表は、現場の社員がしっかり見て、利益が出るように自分で考えてくれるからです。しかも、社員たちの数字の見方は、社長の私よりきめ細かいのです。何しろ、自分の持ち場のこと。会社全体を見ている私などより、ずっと丁寧に、しっかりとした責任感を持って分析してくれます。

 

 金属系の廃棄物処理を手掛ける社員にあるとき、「今年はあなただけで売上高1億円を目指そうよ」と、持ち掛けました。達成したら、特別に賞与を出すと約束しました。
 2014年のことです。果たして、彼は達成しました。
 予想通りです。日ごろの働きぶりを知る私は、最初から達成できるだろうと踏んでいました。

 こうなると、彼もノッてきます。

 彼はそのうち、「廃棄物の買い付けをしたい」と、言い出しました。
 今までは、お客さんから引き受けた廃棄物を売るだけだったけれど相場の動きに精通した今となっては、それだけではつまらない。安いときに買って、高いときに売るという新しいビジネスにチャレンジしてみたいというのです。

 「そこまで言うなら、プラント1つを、あなたに任せるよ。自分が経営者になったつもりで、プラント1つの運営をすべて自分でやってみなよ」
 私は、そう答えました。

 1つのプラントに限るとはいえ、経営者である私がやってきた仕事をすべて任せるのです。うまく回れば、私の仕事はものすごく楽になります。

 だから私も、新しいチャレンジに乗り出すのです!

(構成/小野田鶴、編集:日経トップリーダー

五感経営 ― 産廃会社の娘、逆転を語る』が好評販売中です。

日経ビジネスオンラインの連載「ドラ娘がつくった『おもてなし産廃会社』」に、大幅に加筆、編集しました。

名経営者による「会社見学記」も掲載

「肩肘張らずに自然体。それでもなぜ胆が据わっているのか」
――伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越 寛氏
「後継者にしたい娘ナンバーワン、優しそうに見えて実は……」
――星野リゾート代表 星野 佳路氏

<主な内容>
【CSV編】グローバルに考え、ローカルに行動する
【リーダーシップ編】しつこいトップダウンに始まり、おおらかなボトムアップに至る
【競争戦略編】値決めは経営。安売りは断固、拒否します!
【人材教育編】「自分で考える」のは面倒くさい? 仕事の醍醐味を伝える
【キャリアアップ編】「社長=父」、この繊細にして偉大な上司の生かし方
【ワークライフバランス編】バツイチのワーキングマザーが、心の安らぎを取り戻すまで
【コミュニケーション編】社長業は、社員とのあいさつ一つから真剣勝負
エピローグ ―― 笑われてもなお、夢を描き続ける