経営に関する数字を社員に公開するのは、経営者にとって勇気が要ること。なのに、思い切って公開しても、社員はありがたがらないし、一向に興味を持たない――。産廃処理業界の改革を目指す、石坂産業(埼玉県三芳町)の石坂典子社長が、かつて直面した現実だ。社員の視線を「数字」に目を向けさせるため、どんな努力を積み重ねてきたか。そして、長い年月をかけて成功させたとき、どんな大きな変化が会社に生まれたのか。

 ご無沙汰しておりました。約1年ぶりの更新にて失礼します。

 その間、何をしていたのかといえば、本業(=社長業)の傍ら、この連載をまとめて1冊の本(こんな本です)にしていました。

 せっかく本にするなら、あの話もこの話も書き足したい! と、のめりこむうち、連載の更新が滞ってしまった次第です。

 大変、申し訳ございませんでした。

 

 それはさておき、中途半端に終わっていた前回の続きです。

 昨年の夏、私は、いわゆる「個人保証」を、取引のある金融機関のすべてから外してもらいました。個人保証とは、中小企業などの経営者が個人として、会社の借金の連帯保証人になること。会社の経営が傾けば、経営者が一家揃って路頭に迷いかねない、怖さをはらんだ仕組みです。だから、「個人保証を外してもらった」と、ほかの経営者の方々に話せば大抵、うらやましがられます。

昨年の夏、個人保証を外すことに成功した石坂社長。「数字に強い社員が揃っていたおかげ」と話す(写真:栗原克己)
昨年の夏、個人保証を外すことに成功した石坂社長。「数字に強い社員が揃っていたおかげ」と話す(写真:栗原克己)

 では、どうして私は、個人保証を外してもらえたのか。
 金融機関に「外してください」と、思い切って切り出すまで、私には相当な葛藤がありました。
 しかし、いざ交渉を始めると、拍子抜けするほどあっさりしたもので、すぐに外してもらえました。
 なぜ外してくれたのか。金融機関の方に尋ねたところ、「経営の透明性の高さ」が、評価されたらしいことが分かってきました。
 では、「経営の透明性」とは何でしょうか。
 どうやら、社員が会社の数字をきちんと把握していることが、「経営の透明性」として、評価されたようです。
 しかし、社員に会社の数字に興味を持ってもらうというのは、実はなかなか難しい……。

 前回のお話を駆け足で振り返れば、こんな感じです。

 そして今回は、社員に会社の数字に興味を持ってもらえるようになるまでの、私の七転八倒です。

不器用なくらい、真面目な人がいい

 2002年、私が30歳で社長に就任した後、わずか1年で、ベテランを中心に、約4割の社員が会社を去りました(詳しくは、第2回をご参照ください)。社長就任早々、したたかな洗礼を受け、人の上に立つしんどさを思い知らされましたが、へこたれてはいられません。辞めていった社員の穴を埋めるための採用活動に奔走しました。

 面接で、私は意識的に「業界経験がない真面目そうな人」を、優先して通しました。
 産業廃棄物処理会社では、珍しいことです。
 なぜなら、産廃処理の現場では、パワーショベルやフォークリフトなどの重機を取り扱うことが多く、免許はもちろん、技術的な熟練が求められます。だから、どこの会社でも経験者の中途採用が圧倒的に多いのです。
 けれど、私はそんな同業他社と、一線を画することを決意しました。

 まだ産廃業界の常識を知らない、それどころか世間の常識にも疎いかもしれない。そんなまっさらな人材に、私と一緒に、ゼロからこの会社の新しいカラーをつくってもらいたい。それならば不器用なくらいに真面目で、経験のない若者のほうが合うだろう。私はそう考えたのです。

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