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そうですね。

山下:採用した以上は企業にも責任がある。その方々をいかに継続させるかを考えないと。コミュニケーションを取りながら思いを伝えていくことが必要だと思います。

採用の際、山下さんはどういう面を見ているのですか。

山下:ポイントはとにかく「働きたい」という熱意。もうね、目を見たら分かります。筆記試験もありますけどね、それより「働いてこうしたい」という目標を持っているかどうかです。私が採用したメンバーはほとんど成功してきていますよ。

 採用後、1人のメンバーが「金曜日がすごくうれしいです」って言ってきたことがあります。その方は30歳ちょっと手前で入社したのですが、大学を卒業後、それまで働いた経験がなかった。毎日家にいて、毎日が日曜日だったんです。それが月曜から金曜まで働いて土曜、日曜と休みになる。そうすると金曜日の夜がうれしいんですね。月曜日から仕事だから逆に日曜日の夜はちょっと落ち込んだりもする。でもこういうメリハリがあるというのはとても大事なことです。これが働くということですよね。

三菱商事太陽の方に聞いたら、車いすを使っていらっしゃる方でも夜中の1時まで飲んでタクシーで帰宅したりもするとか……。

山下:そうですよ。

ハシゴ酒もマージャンも

「1時まで飲んでいるんですか」と我々の方がびっくりしたんですけれども。そういうことも普通なんですね。

山下:ええ、もう全く普通ですね。私たちも「あ、そうか、体には気を付けろ」と言うだけで。みんなマージャンをやったり、飲んでハシゴしたりね。当たり前に仕事をして、当たり前に飲んだり、食べたり、遊んだりしています。そういうことが楽しいんですよ。

 別府市では障がい者と健常者の距離が少しずつ縮まってきたことも大きいと思います。昔は障がい者が町を歩けば通りすがりの人に振り向かれましたが、今はそういうことがなくなってきましたから。

障がい者に優しいということは、高齢者に優しいということにも通じます。高齢化が進み、高齢者がどんどん増える日本において、これからどの市町村も企業も考えていかなくてはならないことだと思います。最初に山下さんは、昨今の障がい者の就労の状況を「バブル」とおっしゃいましたが、そういう意味ではバブルにとどめず、今後も継続させることが必要ですね。

山下:そうです。続けていくべきですね。2020年に向けて東京はハード面も整備が進んでいます。そこでストップするのではなく、また東京にとどめるのではなく、すべての地方が今後もそういう方向に進んでいかないといけない。

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県の陸前高田市は復興に当たり、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」をテーマに掲げています。まさに別府市をモデルに障がいのある人とない人が平等に生活する社会を実現させようとしている。こうしたまちづくりについて、山下さんはどのように見ていますか。

山下:ハード面はお金を出せばできます。大事なのはソフト面。心の問題ですね。事前に話を聞いたり勉強したりするだけでは理解できないことがたくさんあるんですよ。例えば、陸前高田では民泊事業でろう学校や特別支援学校の宿泊を受けて入れていますが、当初はホストの間で反対も根強かったという話を聞きました。実際に民泊を受け入れた後には、逆にホストの方たちはすごく感激されていたそうです。

 こういうことって、事前に勉強会を開いたって分からない。視覚障がい者の方と一緒に生活することなんて、勉強して理解できることではありません。一緒にやるしかない。その人に何が必要なのか、どうすれば満足してもらえるのかをその場で知るしかないと思います。