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知りたい経営者は多いでしょうね。

山下:私は、「全く特別なことを考える必要はない」「同じように接してください」「厳しくしてください」と言っています。そこで差をつけたら逆差別になってしまいますから。企業が採用する際、障がいのない人だったら、その人の100%のパフォーマンスを望んで採用しますよね。では障がいを持つ人に対してはどうか。健常者と同じ100%を期待して採用するなら障がいのない人と同じように接すればいい。健常者の80%ほどのパフォーマンスと見込むならば、80%の期待感で接する。企業が障がい者に対してどのくらい望み、どのくらいの期待感を持つかということだと私は思いますね。

障がいのない方が100%の仕事ができるとします。それと比べると障がいを持つ方ができる仕事は80%かもしれない。でもその80%をきちんとやりこなせるのであれば、その人にとっての100%と考えてあげる。そういうことでしょうか。

山下:そうです、そうです。もしかしたら、中には50%のパフォーマンスしか期待できない人もいるかもしれません。その場合は新入社員と同じ気持ちで接すればいいんです。

新入社員ですか。

山下:新入社員って採用して働き始めた後、周囲の社員もすごく気になりますよね。どういう状況にあるかをこまめに報告させて確認するとか、人間関係を気にかけるとか……。試用期間中などは特に配慮して対応すると思うんです。それと同じように接すれば問題なく進むんじゃないかと話しています。

もし50%の仕事しかできない障がい者の方がいるのなら、もう1人50%の仕事をする方を採用して合わせて100%にする。そんな考え方を持つことが必要ですね。

山下:まさにそういうことです。

一人ひとりが常に100%の力をきちんと発揮しているのかを見ていくことも大事になります。ある時はすごく頑張った、ある時は少し成果が出なかったといった評価もしてあげないと、長期的な雇用には結びつかないし、本人の成長にもつながりませんから。

山下:おっしゃる通りです。今、企業は法定雇用率を守ることばかりを考えている。では雇用率のルールがなくなっても障がい者を雇用するのか。たぶん、しないでしょうね。でも障がいがある方でも、担当する仕事のプロになれば、企業にとってはなくてはならない大事な存在になります。ですから私は障がいを持つ方たちに「プロになる気持ちで仕事をしなさい」と言っています。企業側にもあくまでもプロを育てるつもりで接してほしいと思います。

先見の明を持って仕事の幅を広げる

福祉施設の経営というのは非常に難しい面があります。「採用してほしい」という方がたくさんいたとしても、収益の関係から全員を雇用することはできません。雇用と収益をどうバランスしていくかというのは悩ましいところだと思います。山下さんは三菱商事太陽の社長、会長も務めてこられましたが、雇用の問題をどう考えてこられましたか。

山下:先見の明を持って投資することが必要だと考えてきました。今の仕事しか見えないと、その仕事量に見合う人数しか採用できない。常に仕事の幅を広げることを考えないといけないんです。

 例えば三菱商事太陽は、もともとシステム開発を中心に請け負っていました。ただ、システム開発の仕事を任せるには、ある程度レベルの高い方でないと採用できません。そこでアウトソーシング部門をつくり、1人でも多くの障がい者を採用しようとしてきました。先ほど話したテレワークなども仕事の幅を広げる手段になると思います。

 経営者は先見の明を持って働く喜びを感じられる付加価値の高い仕事を見つけ、切り出すことが大事です。そのためには今だけを見るのではなく、世の中の動きを見て先を読むことですね。

 企業側も「法定雇用率があるからとにかく障がい者を採用しなくては」というのではなく、障がいのある方たちに何を望み、何を期待してどういう仕事を任せるかということを考えないとうまくいかないと思います。特に今、精神障がいがある方たちの就労が継続しないことが問題になっています。この問題を解決するには、単純だけどコミュニケーションしかない。私はそう思います。

 今はスマートフォンを操作するばかりで家の中でもコミュニケーションがないということが言われていますでしょう。会社でも隣の席にいるのにメールでやりとりしたりね……コミュニケーションを取って雑談していくうちにその人の思いとか会社の期待といったことも通じ合うようになります。最終的にはそういうコミュニケーションがカギになります。採用の面接なんて5分、10分ぐらいですから。それだけではお互い分からないでしょう。