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中央省庁で雇用水増しが発覚するなど、今、障がい者の雇用問題に改めて注目が集まっている。障がい者と健常者が共生する社会の実現に必要なものは何か。1965年の創設以来、障がい者の自立と就労の支援を手掛けてきた大分県別府市の社会福祉法人「太陽の家」の山下達夫理事長に話を聞いた。

(聞き手は日経BP総研 中堅・中小企業ラボ所長 伊藤暢人)

社会福祉法人「太陽の家」は障がい者の自立と就労を支える草分け的な存在です。創設者の整形外科医・中村裕さんは1964年の東京パラリンピックで団長を務められましたが、それから50年以上が経過し次の東京パラリンピックを迎えようとしている今、障がい者雇用や障がい者スポーツに注目が集まるようになっています。この状況を山下さんはどのように見ていますか。

山下:確かに今、障がい者の就労やスポーツは世間からの注目度も高くなっています。バブルに近い状態ですね。太陽の家の創設者である中村裕は「障がい者は仕事を持ち自立することが最も必要」という信念を持っていましたが、その思いが今の時代に浸透してきたのだと感じます。

 直接的な背景としては少子高齢化も大きく関係していると思います。これまで、やや閉ざされた中にいた障がい者の方々が「社会に必要」と認識されるようになってきた。メディアの影響も大きいですね。障がい者スポーツなどが社会に広く発信され関心が集まるようになってきた。こうしたことが、今のややバブル的な状況を生んでいるのではないかと思います。

山下達夫(やました・たつお)
1959年山口県生まれ。1歳の時にポリオによる脊髄性小児麻痺で重度の障がいを負う。77年訓練生として太陽の家に入所。84年、三菱商事太陽の創業と同時に入社し、2014年社長に就任。2016年、太陽の家副理事長に就任。2016年、三菱商事太陽会長に就任。2018年6月より現職(写真:山本 巌、以下同)

まずはチャンスを与えてみてほしい

中央省庁の障がい者雇用水増し問題を受け、政府は法定雇用率(2.5%=国・地方公共団体など)を達成するために2019年末までに常勤と非常勤合わせ約4000人の障がい者雇用を目指すと決定しました。実現にはどんなことが必要だとお考えになりますか。

山下:企業が今、障がい者雇用で一番苦労しているのは、ハード面ではなくソフト面です。例えば仕事の切り出し。業務の中のどの部分を障がい者の方々に任せるかということです。私が障がい者雇用の話をする時には、「外注に出している仕事を少しずつでも障がいのある方に切り出してもらえないか」というお願いをしてきましたが、障がいのない方の中には、「障がい者に何をさせればいいのか」「何もできないんじゃないか」と戸惑う人も多い。まずはチャンスを与えてやらせてみる。もしできなければ、できるようになるためには何が必要かということを話し合う。そういう対応が重要です。障がいのない方々の障がい者に対する考え方、気持ちを変えなければ、採用ありきで4000人という数だけ合わせようとしてもうまくいかないと思います。

 今、政府は働き方改革を推進していますが、障がい者雇用で新しい働き方も発見できると思いますよ。「超過勤務はさせない」など、障がい者を雇用する上での配慮や工夫は障がいのない社員の働き方改革にも通じる面があるのではないでしょうか。

日本の企業は業務の一部分を切り出して委託することが苦手な面があります。ものづくりでいえば社内で一所懸命に進めては直し、進めては直し、を繰り返す。結局、働く時間がとても長くなってしまうという状況が生まれがちでした。山下さんがおっしゃるように、最初から業務をきちんと整理して一部を切り出せば、「この人はここまでの仕事」「この人はここからここまで」と明確に分けられます。結果的に、働き方が変わる可能性がありますね。

山下:大いにあると思います。そういう時代になるだろうし、ならないといけない。