「恵まれた環境の中で社長になったので、決して自分の力で業績を達成したとは考えていない」。そう話す黒田は、自分自身の今後の課題を「創業者からの脱皮」と分析している。黒田はビジネスホテルを開業し、一代でここまで大きくした父を経営者として尊敬している。「父には勝てないし、父にはなれないということを最初から認めていることが私の強みであり、弱み」と黒田は言う。

本社社員と打ち上げ。女性社員が全体の約85%を占める(写真:菊池一郎)
本社社員と打ち上げ。女性社員が全体の約85%を占める(写真:菊池一郎)

 西田は一線から身を退き、社員からは「オーナー」と呼ばれている。今は時々、会社に顔を出す程度だ。黒田は西田から「宿泊特化型ホテルにこだわること、全世界に1045(トウヨコ)万室を目指すことの2つを守ってくれれば、あとは何を変えてもいい」と言われている。

 「創業者には創業者にしか分からない強い想いがある。それを最大限に尊重し、アドバイスにも耳を傾けながら、革新を図っていけたらいいと思う」

週一度、父娘2人だけの時間

 そんな黒田に対し、父である西田は一度も「事業を継げ」と話したことはなかった。でも小学生の頃から目立ちたがり屋なところがあり、班長やリーダーをやりたがる娘について、父は周囲に「自分の素質を受け継いでいて、ビジネスのセンスがある」としばしば話し、会社に復帰したときは手放しで喜んでいたという。社員の前で「娘が社長になってからのほうが利益が出ちゃってさ」と、うれしそうに話すこともあるそうだ。

 今、黒田は父と週に1回、話す時間を持っている。2人きりでみっちり2時間。会社にいると電話などで中断されてしまうので、場所は西田の自宅と決めている。昨年の7月から始め、もう1年以上。「そういえば、父から経営に関する話をきちんと聞いたことがなかった。今のうちにいろいろなことを教えてもらいたい」と黒田のほうから言い出した。

 黒田は毎回、疑問に思っていることや新しくチャレンジしてみたいことをノートに書き留めていく。「充実した時間ですが、緊張もする。何しろ、いまだに直接褒められたことがありませんから」。

(この記事は日経BP社『日経トップリーダー』2016年10月号を再編集しました。構成:荻島央江、編集:日経トップリーダー

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