2008年、不祥事をきっかけに開業以来最大の苦境に追い込まれたビジネスホテルチェーン、東横イン。事態の収束を図るべく、会社に復帰した跡取り娘の黒田だったが、焦る気持ちが強すぎて空回り……。会社は黒字倒産の危機に陥る。(文中敬称略)

 (前編から続く)

 そんなとき、父で創業者の西田から「とにかく店舗の人間の声を聞け。一方的に指示するのではなく、彼ら自身に知恵を出してもらえば一生懸命に動いてくれるはずだ」とアドバイスされた。

 「父はよく『お金を稼いでくれるのは店舗だ。本社はあくまでサポートをするのが仕事で、支援はしても管理をしてはいけない』と言っていた。なのに、私は真っ向から反対のことをしていた。偉そうに指示を出し管理をしようとするばかりで、支援どころか、現場が何に困っているのかすら十分に理解していなかった」

 父のアドバイスで気を取り直した黒田はここから、支配人たちの声に真摯に耳を傾けていく。フロント担当者の人数は通常通りに戻し、頑ななまでに値下げさせなかった宿泊料金も、地域のことを誰よりも知っている支配人の要望を聞いて柔軟に対応した。

 現場との距離が縮まるにつれ、黒田に対する信頼は少しずつ高まり、稼働率にも回復の兆しが見え始めた。

くろだ・まいこ
1976年東京都生まれ。聖心女子大学卒業、立教大学大学院修了。2002年、父の西田憲正氏が経営する東横インに入社。営業企画部で新店立ち上げに携わる。結婚、出産のため05年に退社。08年に副社長として復帰し、12年6月から社長。夫と2女の4人暮らし(写真:菊池一郎)

 だが、もう1つの課題である金融機関との関係は、その間も、ぎくしゃくしたまま。立て続けに店をオープンさせていた時期だったから、資金繰りは常に逼迫し苦しい状況は続いていた。

 最大の危機は2010年3月。キャッシュがなく、3月末の支払いを乗り越えられるか微妙なところまで追い込まれた。それでも黒田は持ち前の粘り強さを発揮し、あらゆる手を尽くし、キャッシュを確保しようと奔走する。

 各店舗から釣り銭をかき集めたほか、宿泊客にクレジットカードではなく現金で支払った場合は、次回宿泊時に利用できる500円無料券を渡すという工夫をして、絶体絶命の局面を乗り越える。5月から金融機関に対して返済リスケジュールに関する説明会を幾度も開き、11年2月に返済計画の合意を取り付けた。

 その矢先、3月に東日本大震災が発生。「もうだめかもしれない」。黒田はそう思った。