マックアースは、バブル崩壊後客足の遠ざかったスキー場に人を呼び戻すスキー場の再生事業などを手掛けている。日本人のウインタースポーツの参加率は5%。同社CEOの一ノ本達己氏は、これが20%になるポテンシャルが日本にはあると言う。広域で使えるシーズン券などを販売し集客を伸ばす同氏に、ウインタースポーツに対するビジョンを聞いた。

旅館経営からリゾートの再生に乗り出した経緯を教えてください。

一ノ本:私がこの仕事を始めたのは1990年です。この頃大半のホテルは、いかに高額でお客様に泊まってもらうかを考えていました。「学校の団体を泊めるなんて儲からないでしょう」と言われる時代です。

 ですが、当社はあえてターゲットを学校に絞り、一般客は混雑する年末年始だけに来ていただきました。建物も、学校団体が使いやすいようにしていました。

 ところがこの経営を貫いているうち、200軒ほどあったハチ高原エリアの宿泊施設で、3割の宿泊を当社が取ってしまうようになってしまいました。観光産業は地域産業ですから、一人勝ちでは成り立たなくなってしまいます。

 そこで、この場所でこれ以上収容能力を増やすのはやめて、次の場所を探し始めました。

白樺館がスキー場の宿として稼働率日本一に

 いろいろと各地のスキー場経営について調べていると、何と私たちの白樺館は、スキー場の宿としては稼働率が日本一のようだ、ということが分かりました。ならば、白樺館でやってきたことを他の地域でも展開しようと考えるようになったのです。

 そんなさなか、地元観光協会の視察旅行先だった滋賀県の奥琵琶湖エリアに、ほとんど稼働していない企業の保養所があるのを見つけました。製薬会社の研修施設でした。見た瞬間、「あ、これはいける」と思いました。

風光明媚な奥琵琶湖エリアにあった企業の保養所を買い取って、学校団体が使う「奥琵琶湖マキノパークホテル&セミナーハウス」を開業。アクティビティーにはカヤックスクールなどがある。写真は同地の名勝、海津大崎の桜
風光明媚な奥琵琶湖エリアにあった企業の保養所を買い取って、学校団体が使う「奥琵琶湖マキノパークホテル&セミナーハウス」を開業。アクティビティーにはカヤックスクールなどがある。写真は同地の名勝、海津大崎の桜

 建物はリノベーションすればすぐに使え、サイズも適切でしたし、それに琵琶湖まで近かった。

 ここに子供たちが来たら、こんなアクティビティーで楽しめるなというイメージがすぐに描けました。対岸のヨットスクールが学校からの団体客で混雑していると耳にしたので、当社ではカヤックスクールもやろうと考えました。

 保養所を売ってもらうために直接交渉をしようと、学校にセールスする合間にその製薬会社に突撃です。

 ところが、山奥の旅館の30歳そこそこの社長が行っても門前払いです。誰かに仲介してもらうのも筋が違うと思い、30回ぐらい出向いて全て空振りでした。その後、自分なりに企画書を書いて相手方の総務部長に送り、それが着いたかなというタイミングで電話をしました。やっと面談にこぎ着け、そこからは早かったですね。

 その一方で地元自治体の反応は「あんたの話の通りになったらいいけど」というものでしたし、観光協会からは商売敵と見なされました。それに、カヤックも宿泊も予約を取り始めて埋まってきたのに、地元の漁業協同組合からまだ浜の使用許可を出してもらえていませんでした。「そんなことはやってもらわんでええ」と。

どうやって乗り越えたのですか。

一ノ本:リゾートの仕事は地域貢献がとても重要です。ですので、ここを「奥琵琶湖マキノパークホテル&セミナーハウス」として開業したとき、最初に地元集落の回覧板に求人を出したんです。

 すると、パート従業員としてたくさんの方が応募してくださいました。面接に来られた方に「実は浜の営業許可が取れてないんやけど、何とかならんですかね」と相談したら、次の日にもう「使ってええぞ」と許可が出たのです。

 それから5年ほど、毎年100校近くの学校を受け入れて、地域にも理解してもらえるようになりました。

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