時計や自動車、歯科用の精密部品を加工する工作機械で高いシェアを持つスター精密。その経営を担う佐藤肇社長は、財務のカリスマとも呼ばれ、地元・静岡県では“佐藤塾”で他の経営者に財務を教えるほどだ。その佐藤社長に英国のEU離脱への対応や、金融が不安定になったときに経営者がすべきことを聞いた。
英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めました。現在の混乱はリーマン・ショック後のそれと比較されることもあります。
佐藤:2008年9月のリーマン・ショックのわずか2カ月後、うちの工作機械の受注が8割減りました。2割減で8割になったのではなく、8割減で2割になったのです。尋常ではありませんでしたが、一気に影響を受けるということは、収まるのも早いだろうと見ていました。
リーマン・ショックは、民間企業がわずか1社潰れただけとも言えるんです。もちろんそれは金融全体に影響を与えますが、いずれ収まることは分かっていました。先が読めていたのです。

かなり早く手を打っていましたね。
佐藤:とにかく買うな、作るな、売るな。在庫を減らすことを徹底しました。工作機械というのは高額なので、景気が悪くなると需要が減って売れなくなります。売れなくなると価格が下がります。それが一過性で済むならいいのですが、1000万円だったものを800万円にしてしまうと、それが市場価格になってしまいます。一過性では済みません。
なので、売るな。売らないのだから作るな、買うなです。すべての事業所で金曜も休みにして週休3日にしました。従業員の賃金もカットすることになりますが、その分、国から補助金が出ました。
英国の欧州連合脱退はどのような影響を与えますか。
佐藤:今回はリーマン・ショックとは違います。英国という国、ユーロという世界がどうなっていくかという話ですから、先は読めません。役員には、2年後に英国が離脱することや、離脱が撤回されるとかEUが譲歩するとかいった可能性は一切考えず、明日突然、最悪のことが起こるという前提で考えるようにと伝えています。2年の猶予は考えるなということです。
今、うちの欧州のプリンター部門は英国にしかありません。英国がEUから離脱すれば、そこで作ったプリンターをドイツで販売するのに課税されるようになります。また、英国の拠点で働いている人たちの中には、親やその上の世代で大陸から移ってきた人たちもいます。こういった問題もあるので、リーマン・ショックと比較するのは、違うのではないかと思います。
状況が悪いときこそ経営者の手腕が問われる
佐藤:英国がEUから離脱して何が変わるかというと、物と人の動きの自由度が下がるということです。税金がかかるかからないか以上に、物がうまく流れなくなり、売れなくなるでしょう。
ただ、最も影響を受けるのは金融機関でしょう。それも、欧州に進出しているメガバンクではなく、地銀や、もっと小さな信用金庫だと思います。ということは、中小企業に影響が出るということです。大企業も影響を受けますが、さまざまな対応が取れます。しかし、中小企業には大企業のような対応力がありません。
それからユーロとポンドが下がりますから、円高も進むでしょう。米国も利上げせずともドル高を維持できる。
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