津田:集塵機についてもそうです。鋳物工場やタイル工場ではかなりちりが出るのですが、当時、投資をして作業環境を良くしようと考えていたのは大手企業だけです。ですから中小企業へは、この規模の工場にはこの規模の集塵機を置けば、これくらいの範囲で間違いなくちりを吸えますという具体的な提案をしていました。

 若手を教育する立場のマネジャーになってから思っていたのは、部下は上司の背中を見て育つもの、私が一生懸命に売り込みに行くので、部下にはそれを見て育ってくれればよいと。ところがそれは、大きな勘違いでした。この頃、上司に言われたのです。「店の数字は店長一人でつくるものではない、皆でつくるものだ」と。これが私のターニングポイントだったと思います。そこではっと気付いて、メンバーのスキルや思い、家族構成や生い立ちまでを見ていこうと考えが変わりました。彼らが成長すれば、店の数字は伸びます。

売れば売るほど疲弊するものは売りたくなくなる

店の数字は皆でつくること、メンバーの思いや身の回りのことも考える必要があることを実践して売り上げを伸ばした経験があれば教えてください。

津田:当社では駐車場で使う機械も販売しています。購入されたお客様が駐車場を運営されるのですが、機械にトラブルがあるとお客様では直せません。このため、技術員は24時間体制での対応をしなくてはならず、疲弊していたのです。マネジャーとしてはこの状況を改善する必要があると思いました。そこで技術員に対して、当社とは別の警備会社のスタッフがトラブルに対処できるよう教育することを課しました。そうすると、技術員が夜中に駆け付けることはなくなって、それまで以上に駐車場の機械が売れるようになりました。売れば売るほど自分たちが大変な思いをするとなると、そうはいかないのです。

アマノでは駐車場ゲートシステムも製造販売している。写真は一般的なシステム。ほかに駐輪場のシステムや有料道路向けなども手掛けている
アマノでは駐車場ゲートシステムも製造販売している。写真は一般的なシステム。ほかに駐輪場のシステムや有料道路向けなども手掛けている

 関東営業本部へ移り、若手が多い環境になった頃には、「1%成長」を呼び掛けていました。一人ひとりが、1%でもいいから成長しよう、5%成長する人もいるだろうが、どんなに状況が悪くても1%は成長しようと。そうすると、全体が上がるんですね。

 他にも、少し照れ臭いですが「6-3-3戦略」と呼ぶ戦略を勝手に打ち立てました。

 これは6つの「あ」、あいさつ、ありがとう(感謝)、あたまを下げる(御願)、あやまれる(謝罪)、あたらしいことに挑戦、あいてのことを思うことを意識する。さらに、3つの「不」、不便、不安、不満を取り除くと商品、サービスは売れるということ、それから、故事によく登場する3という数字にこだわるというものです。「三顧の礼」「石の上にも三年」「二度あることは三度ある」などと言いますが、実際私の経験でも、3度目の訪問でようやく話ができる、あるいは見積もりを提出してから3日後に訪問すると受注できるとか、3年たって行ってみると担当者が変わっていて、ほとんど取引がなかったお客様との状況が変わるといったことがありました。それを分かりやすく伝えようと「6-3-3戦略」としてまとめたのです。

 ただ、これらは若手向けに言ってきたことですから、今後、経営層予備軍には別のことを伝えていかなくてはならないと思っています。

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