田中:そこではたと気が付きました。収益不動産は別に競売で買わなくてもいいな、と。その頃になると、普通に売られているアパートのほうが、競売よりコストパフォーマンスの良い物件になっていたのです。

 価格だけ見れば競売のほうがまだ安い。ですが、競売物件には、すぐには販売できない、リニューアルもしにくいといった事情があるケースが多いんです。

 例えば、債務者に立ち退いてもらうなど、売り主がやりたがらなかったことをやる必要がありましたし、売り主としては手放したくない物件が競売にかかることも多いので、その場合は設計図といった資料をもらえず、リニューアルなどが簡単にはできないこともありました。

 そこで、普通に売られているアパートの売買も始めました。売り方も切り替え、大手仲介会社の個人富裕層の担当部署や、信託銀行の不動産部に紹介してもらったお客様を中心に販売することにしたのです。

その時々で事業を少しずつ変化させながら、順調に事業を伸ばしてきたようですが、課題はどのようなことでしたか。

田中:社員がなかなか集まらないことです。小資本の会社に入ろうという人はなかなかいないのです。

 そこで目を付けたのが、不動産鑑定士の卵です。鑑定士は、一生懸命勉強して2次試験まで突破しても、実務経験がないと3次試験を受けられません。それを知っている鑑定士の中には、実務経験ができるからと、13万円程度の安月給で鑑定士を目指す人を使っている例もありました。

 ならば、毎月20万円の給料を出せば、向学心のある優秀な人が来るのではと考えて人材を募集したところ、来てくれたんですよ。10人以上から応募があって、鑑定部という部門をつくり、年間3億円を売り上げるほどになりました。

エー・ディー・ワークスでは、仕入れた収益不動産の価値を高めて富裕層に売るビジネスを始めた。富裕層に売った後は、販売した収益不動産の管理や修繕工事、あるいはその他の資産のコンサルティングに携わる
エー・ディー・ワークスでは、仕入れた収益不動産の価値を高めて富裕層に売るビジネスを始めた。富裕層に売った後は、販売した収益不動産の管理や修繕工事、あるいはその他の資産のコンサルティングに携わる
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 ただその後、国の予算が減って鑑定の仕事が減ったときには規模を縮小する必要がありました。

 社員に辞めてもらうのは経営者も社員も大変なことですが、鑑定士に辞めてもらう場合は、少し事情が違いました。鑑定士は、特に地方へ行くと稼げるんです。地方には鑑定士がほとんどいないので、個人事業でも高収入を得られます。地方出身者が多かったこともあり、普通の社員に辞めてもらうのに比べると、それほど胸を痛めずに済み救われました。

手帳に倒産した不動産会社をメモしていた

JASDAQへの上場は2007年10月ですね。

田中:不動産事業の規模を拡大していくには、やはりどうしても自己資金が必要です。この頃にはハウスポート西洋時代の同僚・部下たちも転職してきていましたが、上場をすればさらに社員を集められるだろうとも考えました。

 そこで上場の準備を進めたのですが、株式市場が下降し始めたのに伴って1株15万円ほどであるはずの売り出し価格は7万円程度になると言われました。それでも、これを逃したら次はないと考え、了承しました。

 幸いなことに上場初日には21万円ぐらいまで上がりましたので、結果的に問題なく安心しました。同業者も、この頃から上場へ動き始めましたが、米国の金融危機が表面化し、すぐにリーマンショックにつながりました。2007年に上場できた不動産セクターの企業は数社にとどまったんです。

 バブル崩壊のときもそうですが、リーマンショックの時期にも不動産会社は次々に潰れていきました。

 私は、100年企業の名前を受け継いでいる当社は絶対に潰せないと考え、どんな同業者が潰れていっているのか確かめるため、自分の手帳に倒産した不動産会社をメモしていたんです。そのうち1ページでは足りなくなって、2ページでも足りないという日も出てきました。それくらい倒産が相次いだんです。

(後編に続く。掲載は9月14日の予定です。
構成:片瀬京子、編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ)

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