強みに光を当てればすがすがしいほど人は育つ
カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント会長兼社長 穂積輝明氏に聞く(前編)
「カンデオホテルズ」ブランドで、ラグジュアリーホテルとビジネスホテルの間に位置するホテルを国内で展開するカンデオ・ホスピタリティ・マネジメント(東京・港)。
同社は2025年までに、国内の客室を現在の4500室から1万室まで伸ばすことを目標にしている。経営の主眼は“従業員ファースト”にあると同社会長兼社長の穂積輝明氏は言う。学歴・職歴・性別・国籍などは不問でやる気のある人材を登用。彼らが成長し、自発的な対応でゲストを迎える。
2007年9月に最初のホテルをオープンしてから10年以上が過ぎましたが、カンデオホテルズの現状を教えてください。
穂積:当社のホテル規模は、今後のオープンが決まっているプロジェクトを含めて、25棟4500室です。25年に創業20周年を迎えますが、それまでに国内1万室の出店契約達成を目指します。5つ星のラグジュアリーホテルでもない、3つ星のビジネスホテルでもない、当社の狙っている4つ星のマーケットで10%ほどのシェアを取れるのではないかという認識です。
現在から逆算するとあと7年ほどですが、この1年で7棟1600室を開業できましたし、最近はホテル規模も大型化しつつありますから、この目標はクリアできると思っています。
穂積 輝明(ほづみ・てるあき)
カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント代表取締役会長兼社長。1972年京都生まれ。99年、京都大学大学院工学研究科修了後、スペースデザイン入社。開発直営型のサービスアパートメントやサービスオフィスの事業の立ち上げに携わる。2003年クリード入社。ホテル開発事業・新規事業の立ち上げなどを経験。05年カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントを創業し代表取締役社長に就任。12年、MBOにより独立。現在、建設中も含め国内25ホテル4500室を展開中。『日経ビジネス』が実施した満足度ランキングホテル編ビジネスホテルの部で12年と17年の2回連続日本一を獲得(調査は5年に1度)
国内約90万室のほとんどが5つ星か3つ星
このところ東京、大阪、広島、神戸と大都市圏のホテルの開業が続き、19年の夏には埼玉県の大宮が予定されていますが、20年には和歌山に開業するそうですね。
穂積:大都市圏だけでなく、地方都市への進出も続きます。和歌山のプロジェクトは、南海電鉄が、和歌山市駅の建て替えに合わせて地域再生を目指す総合開発を進めている中で、「カンデオホテルズ和歌山」を開業する機会をいただきました。当社は海外からも集客できるようになっているので、それを通じて地域活性化のお役に立てればと考えています。
当社のホテルには欧州とアジアからのお客様が多いのですが、彼らにとって、日本は行ってみたい国、一度行ったら2度、3度と行きたい国です。訪日の回数が増えると、行き先は大都市部から地方都市へ移ります。そうした流れを拡大したいと思っています。
私たちは海外の宿泊客を呼び込むために、文化の違いを理解したマーケティングや接客を心掛けています。例えば台湾やタイのお客様は写真がとても好きで、撮影するとすぐにインスタグラムにアップします。なので、彼らにはお薦めの撮影ポイントをご案内します。
アウトバウンドについてはいかがですか。
穂積:海外での出店も、複数棟を検討中です。海外進出については25年までにASEAN(東南アジア諸国連合)地域で4000室規模にしたいと考えています。
話は少し戻りますが、国内での規模拡大は目標の1万室ぐらいが限界かなと考えています。現在、日本のホテルは約90万室ありますが、ほとんどが5つ星か3つ星に分類されます。私たちのように、その中間の領域を意識しているプレーヤーは、当社試算で5万室ぐらいの市場をつくっています。国内ホテル市場全体の5%程度という、ニッチマーケットなのです。
ですからその先は、ホテルの規模拡大を目的にせず、新規事業を創出してホスピリタリティー・コングロマリットを目指すというのが夢です。
1次産業の6次化や教育にも進出する
ホスピリタリティー・コングロマリットとはどのようなものでしょうか。
穂積:例えばホテルで提供している朝食の食材の仕入れに絡めて、農業者の6次産業化をお手伝いしたり、食材価格の下落時に弊社が固定価格の買い取り保証を付けることで、生産者は安心して市場に出荷できる仕組みをつくる、といった支援ができると思っています。
食材同様、リネン関連でも、綿花栽培農家がシーツやタオルのような最終製品まで作って直販すれば、農家も豊かになると思います。弊社に一定規模の購買力があれば、そういった事業を支えられると考えています。本業のホテル業は高収益を出すことにこだわり、周辺のエシカル(倫理的=環境保全や社会貢献)な事業は薄利でも継続性があればよいとのスタンスです。
飛躍するようですが、教育もコングロマリットを構成する事業にしたいと考えています。
当社では多彩な学歴、職歴の持ち主が働いています。社員を一緒に働く共同経営者という意味でパートナーと呼んでいますが、パートナーの中には小さな頃は勉強をしなかったという人もいます。自信も経験もなく、自分の実力を過小評価し、学歴がないことをコンプレックスに感じているパートナーもいます。ですが、人は誰しも必ず1つは誰にも負けない強みを持っています。なので、そこに光を当てて活躍の機会を提供します。
こうした取り組みを、当社のパートナー以外、各国の学生などにも広げていければと考えています。
カンデオホテルズでは人材育成に力を入れているのですね。人材開発のための特別の方針や方法はあるのでしょうか。
穂積:パートナーたちの日々の活躍の場、あるいは活躍できる機会に“光を当てる”ことを考えています。
当社には例えば、両親が離婚し、それによる寂しさを紛らわせるために、若い頃はグレていたパートナーも数多くいます。彼らはホテルのリーダーになると逆に“家族愛”を発揮するのです。自分の部下を絶対に守ろうとします。彼ら自身に学歴などの“既得権”がありませんから、同様に学歴などの有無で部下を評価することもありません。家族愛に守られた彼らの部下たちは、この上司は絶対に裏切らないので付いていきたいと考えるようになり、上司のためにも仕事を頑張るという好循環が生まれます。
経営の主眼は従業員ファーストに置いている。パートナーそれぞれの強みを把握し、強みを生かせる業務を割り当てるという
人間誰しも強みと弱みを持っています。当社は、強みに光を当てます。できないことはできなくていいので、パートナーたちのアイデンティティーをよく理解したうえで、そのパートナーが持つ、誰にも負けない強みを中心に業務を組んでいきます。
当社は、“従業員ファースト”の会社でありたいと考えています。企業の人材開発には、高学歴で優秀な人を集め、さらに競争させて選抜していくという方法があります。それが人材開発の王道であり、世界中で普遍的に行われていると思います。一方で、当社のような光の当て方をしている企業は少ない。そこに我々の存在意義があると思うので、そこは貫きたいのです。
穂積:他社から見ると理解できないかもしれません。なぜこんな個性的な人ばかり集めているんだと。ただ、私たちのパートナーは、成長への思いを強く持った、気持ちのいい仲間ばかりです。彼らの強みに光を当てると、本当に素晴らしい成長を見せてくれます。そういうすがすがしい仲間の成長ぶりを目の当たりにすると、どれだけ苦労が多くとも、社長業をやっていてよかったと心から思えます。
当社には、現地採用のアルバイトは契約社員にはなれるけれど、正社員にはなれないというような敷居は一切ありません。そこを駆け上がってきた、現場たたき上げのパートナーが力を付けてきています。そうしたパートナーたちに、最終的にはホテル経営を任せたいという思いもあります。
今期からは、いちいち本部にお伺いを立てなくても、現場のパートナー自身が現場目線で運営方針を決めていける、オペレーション・マネジメント・チームという全社横断的な新しいチームを立ち上げます。
ホテルビジネスの最大の要諦は人です。一人ひとりの仲間がお客様に対してどのように接客しようか、どのようにお客様を喜ばせようか、わくわくしながら考える空気ができると、それがお客様に伝わります。そうした接客ができること、併せて、周囲から尊敬されるような素晴らしい人間性をお互いに身に付けていくこと、この2軸で会社を強いチームにしていきたいと思っています。
柔軟に自分の考えでお客様に声を掛けてOK
そのような人材育成から生まれる接客やサービスには、詰まるところ5つ星レベルを求めるのでしょうか。それとも、4つ星にふさわしい形があるのでしょうか。
穂積:現場の運営には、一人ひとりのお客様のニーズを予測し、そこにぶつかっていくというルールがあります。
お一人のお客様やファミリーのお客様が、チェックインのために、エレベーターホールからフロントまで向かってきます。その数秒間の一挙手一投足はお客様ごとに違うのですが、パートナーはそれを理解したうえで、ベストと思う言葉を自由に掛けていいことにしています。
例えば夜12時頃に、ビジネスのお客様がお酒も飲まずに帰ってこられた。そのときには「遅くまでお疲れ様でした」と言ってもいい。すると「いやあ、本当に今日は疲れたんだよ」と喜んでくださるお客様もいますが、「やかましい、疲れてなんかいない」と怒るお客様もいます。喜んでいただければ、接客が良かったということでパートナーの成果とします。クレームになったらその責任は最終的に私が取ります。
伸び伸び、柔軟に自分の考えでお客様に声を掛けていいのです。どう接客しようかとあれこれ考えれば、パートナー自身、楽しい気持ちになりますし、彼らの行動に柔軟性が出ます。
17年開業の東京六本木店の「スカイスパ」。「都会の中心で、最上階の露天風呂という特別な体験」が売り。ビジネスホテルともラグジュアリーホテルとも違う造り
(後編に続く。後編の掲載は8月10日の予定です。構成:片瀬京子、編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ)
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