働き方改革が叫ばれるようになり、今年で3年目。社員、会社、社会(顧客)の三者は対立するのではなく、利害が一致する。先進企業の取り組みから、働き方改革の方向性を探った。

[この記事は「ヒューマンキャピタル2018」の講演をまとめたものです]

<パネリスト>
味の素常務執行役員 藤江太郎氏
NIコンサルティング代表取締役 長尾一洋氏
オリックス 執行役グループ人事・総務本部長 三上康章氏
コマツ常務執行役員 浦野邦子氏
日本IBMコラボレーション&タレントソリューション事業部 Watson Talent担当 河野英太郎氏
日本航空執行役員人財本部長 小田卓也氏
パソナテック取締役Job-Hub事業部/エクサウィザーズ取締役 粟生万琴氏

<モデレーター>
日経BP社人事室長 小林暢子

小林:働き方改革という言葉が出てきて今年で3年目になります。つい先日は、働き方改革関連法案が成立しました。

 働き方を変えていく上で、社員、会社、社会あるいは顧客という3つの立場で捉えると、かつては三者の利害に矛盾が生ずることが見受けられました。会社は社員のためを思って時短を進めても、社員にとっては生活費の一部に組み込まれている残業代が減ることになる。社員がテレワークのような自由な働き方を望んでも、会社は生産性が下がると考える。また、社員が早く帰れば、顧客は連絡をつけにくくなる、といった具合です。

 しかし、何年か取り組んできて、その逆の流れも徐々に見えてきたように感じます。社員にとって働きやすく、仕事と家庭の両立ができて収入も減らない。会社にとっては生産性が上がり、新しい発想をもとに業績が伸びていく。また、社会や顧客にとっては、企業が生み出した商品やサービスを活用して、全体が良くなっていく。こういった三方良しのサイクルが回り始めています。そのための大きな武器の1つがICTではないでしょうか。みなさんの会社では、働き方改革の中でどのようにICTを活用しているでしょうか。

ルーティンワークから解放される時代が来た

小田:弊社では経営破たん後、一人ひとりの業務量が増加するなかで、多様な人財が活躍できるように、インフラ整備を先行して進めました。最初にノートPCと携帯電話を貸与し、固定電話を廃止しフリーアドレスを導入しようとしましたが、そんなにコストをかけて結果が出るのかという声が上がりました。

 そこで、トライアルの形で一部の部署からICT化をスタートし、満足度が上がった成果を受けて全社に推進していきました。今では、1年半前から導入したRPAが成果を出しています。RPAというのは、定型業務や間接業務を自動的に処理してくれるソフトのこと。人間が2、3日かかる仕事をPCが人の手を借りずに行ってくれるのです。人間がルーティンワークから解放され、その分、考える時間に充てるという時代がいよいよ来たのだと実感しています。

日本航空執行役員人財本部長 小田卓也氏(写真/稲垣純也、以下同)
日本航空執行役員人財本部長 小田卓也氏(写真/稲垣純也、以下同)

藤江:私のような1本指でPCを打つアナログ人間でも、ICTが普通に使えることがポイントだと思います(笑)。以前は、仕事とは会社に行って上司や同僚とフェース・トゥ・フェースでやるものという概念でしたが、ICTにより、場所と時間にとらわれなくなってきました。味の素では2017年4月から、テレワークの場所と回数の制限を大幅に緩和した「どこでもオフィス」を全社員を対象に実施しています。私も、集中して考えたい会議などのケースで、月2、3回は利用しています。所定労働時間の7時間15分をきっちりこなすと、結構疲れるのですね。

 一方、会議での大きな変化がペーパーレスへの移行です。今年4~6月で数えたところ、ペーパーレス会議が82%でした。このような働き方改革によって、生産性やイノベーションをいかに高め、生み出すか。デジタルトランスフォーメーションが企業の競争力の源泉になっていると思います。

味の素常務執行役員 藤江太郎氏
味の素常務執行役員 藤江太郎氏

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