「いずれは会社を辞めて起業したい」「昔から温めているアイデアをもとに、将来は自分の会社をつくりたい」――。
 そんな思いを抱いている人はいるだろう。とはいえ、起業家には向き不向きがあるようだ。どんな人が起業家に向いているのだろう。
 「あらゆる問題を楽しんで仕事にできる人が、起業家に向いている」。こう話すのは、洋服のレンタル事業「エアークロゼット」はじめ、130社を超えるスタートアップ起業に投資してきたサムライインキュベートの榊原健太郎氏。IT系ベンチャーが集積し、世界の投資家が注目するイスラエルにも拠点を持つ。榊原氏が起業家に求める資質について聞いた。

これまでに投資したスタートアップ企業は130社を超えるそうですね。投資判断の際、起業家のどんな能力を重視していますか。

榊原:投資の基準は2つあります。

 1つは、どういう人がどんなことに困っていて、それをどう解決するのかを10秒で言えること。課題を解決するのが起業家です。ぼんやりした内容ではダメですよ。

 10秒は意外に長い。それでも「どうしてもこれを本気でやりたい」と思っていないと、なかなかシャープに言えないものです。そこで毎月2回くらい、起業志望者を全国から10人限定で集め、発想法を教えたり、僕のアイデアを提供したりしています。

<b>榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)氏</b><br />1974年生まれ。2008年にサムライインキュベートを設立。14年、イスラエル支社を開設(写真/菊池一郎)
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)氏
1974年生まれ。2008年にサムライインキュベートを設立。14年、イスラエル支社を開設(写真/菊池一郎)

 例えば、洋服のレンタルサービスを手掛けるエアークローゼット(東京・港)のビジネスモデルは、同社の天沼聰CEOと一緒に、うちのメンバーが考えました。毎月、スタイリストが選んだ洋服3着が自宅に届くというサービスです。レギュラープランで月額9800円(税別)。返却期限はなく、飽きたらクリーニングせずに返却していい、という手軽さが受けています。

 これは、どんな人の、どんな悩みを解決することを想定したサービスだと思いますか? 私たちが考えたターゲットは、30代後半から40代の女性。出産などで体型が崩れてしまい、自信がなくてお店に洋服を買いに行けない人に向けたサービスです。本当かと思われるかもしれませんが、実際、想定した通りの人が利用してくれています。

 また、お店で「お似合いですね」とおべんちゃらを言われるのが嫌な人も想定しました。さらに、会社の同僚に着ている洋服を細かくチェックされるのが嫌な人もいるでしょう。そんなとき、このサービスを使えば「エアクローゼットで届いたから着てみたんだけど……」と言ってかわせる。

 こういった顧客の小さな悩みにきちんと応えることを想定すると、ビジネスは成功します。

相手の立場になる

 今の日本では、相手の立場になって考えることが実は少ないと感じています。当社はイスラエルに支社があるのですが、イスラエルで天才とはどんな人かと問うと、「相手の気持ちが分かる人」だという答えが返ってきます。

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