国が主導する働き方改革。過去に例を見ないほど、議論は盛り上がりを見せるが、どのようにすれば労使がウィン・ウィンの新しい働き方を実現できるか。働き方改革と企業競争力の関係性を産官学の3人が議論した。

[この記事は「ヒューマンキャピタル2017」の講演をまとめたものです]

<パネリスト>
BTジャパン代表取締役社長
日本経済団体連合会審議員会副議長、内閣府規制改革推進会議委員
吉田晴乃氏

経済産業省経済産業政策局産業人材政策室参事官
伊藤禎則氏

慶應義塾大学大学院商学研究科教授
鶴光太郎氏

○モデレーター
日本経済新聞社編集局編集委員兼論説委員
瀬能繁

これまでの働き方改革では残業の上限規制や同一労働同一賃金などの課題が中心で、企業にとっての生産性向上や国際競争力向上の議論が不十分だと思われます。本日は、パネリストの皆さんに、働き方改革を日本の企業の競争力強化につなげるにはどうしたらいいのか論じていただきたいと思います。

伊藤:私は経済産業省で働き方改革を担当しております。働き方改革が注目を集めていますが、その本質は何か今ひとつ腑に落ちていないといった状況だと思います。歴史上初めて罰則付きの法定によって労働時間の上限規制が導入されたことは、まさにパラダイムチェンジでした。そして、今年4月以降、働き方改革の第2章に入ったと考えております。

経済産業省経済産業政策局産業人材政策室参事官の伊藤禎則氏
経済産業省経済産業政策局産業人材政策室参事官の伊藤禎則氏

 そのポイントは3つあります。まず第1に「成果、生産性に基づく評価」です。政府によるルール作りが進み、これからの主役は企業と働く個人です。長時間労働の是正は、ボーリングのファーストピンのようなもので、それ自体がストライクではありません。ファーストピンの裏側にあるほかのピンをいかに倒すかが重要で、狙うべきストライクは、個人で言えば成長であり、働く喜びです。企業であれば生産性の向上や業績拡大、その結果、国全体の成長につながるのです。「何時間働いたか」とか「何年勤めたか」ではなく、どんな成果を挙げ、どれほど生産性を向上させたかで、評価される仕組みへと変えていくべきでしょう。

 第2に「時間、場所、契約に縛られない柔軟かつ多様な働き方の実現」。育児や介護などそれぞれの働き手の制約やニーズが多様化しており、副業や複業、フリーランス、テレワークなど働き方の多様化を推進していただきたい。

 第3にこれが本命ですが、「人づくり革命による生涯スキルのアップデート」です。人生100年時代を迎えて、「勉強は大学で終わり」「定年後は悠々自適」ではなく、学ぶことと働くことが一体化し、生涯かけて働きながらスキルを向上させていくことが重要になります。AI(人工知能)を敵対視するのではなく、うまく使って自らの付加価値をどう高めるかが問われるでしょう。この6月に安倍総理が記者会見で発言されたように、働き方改革の次のアジェンダは「人づくり革命」であり、これこそ第2章になります。

 日本企業におけるエンゲージメント(モチベーションややる気)は139カ国中132位という調査結果があり、実際はこの通りではないでしょうが、やはり従来の働き方には問題があると言わざるを得ないと思います。

長時間労働の抑制と同時に、企業の生産性向上が必要

伊藤さんのお話を受けて、企業や働き手の生産性を上げるにはどうしたらいいのか、お二方のご意見をお聞かせ下さい。

:長時間労働の抑制や非正規雇用の処遇改善など、大きな問題に安倍総理がリーダーシップを発揮されたことは素晴らしい成果だと思います。ただ、企業の人事担当者と話をすると、一種の戸惑いが見えてきました。単に長時間労働の抑制だけでいいのか、労使と共にウィン・ウィンの関係になりながら、企業のパフォーマンスを高めていく必要があるのではないかという点です。その観点から私は2つのポイントを指摘したいと思います。