太田:なぜソニーの退職を決めたかと言いますと、きっかけは留学中の夏休みにポーランドに派遣されたことでした。大学の教授の友人が、ポーランドにある会社に出資することになり、そこで経営のアドバイスをすることになったのです。私は学生時代にポーランド語を学んでいたので、言葉ができました。そこで経験を積んで、起業をしたくなり退職しました。

 ただ、ソニーに学費を返さなくてはなりません。そのときにローンを組んでくれたのが、その後勤めたコンサルティング会社です。ここで働いてみると、コンサルティングもなかなか面白く、あっという間に10年が過ぎてしまいました。最後の3年間は、本社にロイヤルティーを払いながら、東京で独立した形でビジネスをしていました。

会社を強くする議論に参加した社員がその手法に納得

太田さんは、チューリッヒ生命の日本代表に就任して間もなく、革新的な保障性商品を提供する、品質の高いサービスを提供する、利便性の高い、顧客が選びやすいチャネルを提供するという3つの柱を決めました。これは太田さん一人で決め、社内に浸透させたものなのですか。

太田:私のやり方はトップダウンで指揮を執るというより、チームで忌憚のない議論を重ね、ドライブをかけるべき人たちが完全にミッションを自分のものにして前に進むというやり方です。ですので、表現が適切ではないかもしれませんが、子供をたくさんつくり、その子供たちが自主的に全体の問題を共有し、創意工夫しながら解決していくようにしたつもりです。

 チームで緊張感のある議論を進めるには、時間軸が必要です。そこで、選抜社員で新しい戦略をつくっていくに当たり、そのプロジェクトを「100日計画」と名付けました。

 実際には110日くらいかかったかもしれませんが、営業や商品など、機能別に分科会で議論を進め、そこでの結果を“ステアリングコミッティー(運営委員会)”へ報告し、そこでさらに議論するというプロセスを経て、3つの柱などが出来上がりました。議論に参加したメンバーは、今後何をどうしていくべきかというその成果に納得しています。

太田氏が進めた100日計画のプロジェクトスケジュール。1課題をほぼ1~3週間で次々にこなしていく
太田氏が進めた100日計画のプロジェクトスケジュール。1課題をほぼ1~3週間で次々にこなしていく

 次は、これらの成果についてチームメンバーではない社員にどう展開するか、です。そこで実施したのが“タウンホールミーティング”です。質疑応答がしやすいよう、およそ20人単位のミーティングを設けて説明し、コメントや質問をもらうという作業を重ねました。重要なのは、参加者にフィードバックを得る機会を提供することだと思っています。

 2012年には、“スキップレベルのランチ”を実施しています。スキップレベルとは、私の直属の部下ではない人たち、5、6人と1時間ほど、弁当を囲んで腹を割って話す場です。このときには単純明快な2つの質問を常にしていました。1つは、会社の今の強みは何で、何を残したいか。それから、どこが問題で何を改善したいか。そうやって110人ほどから意見を集めると、44のテーマが上がってきました。そのうちのおよそ3分の1は既に実行済みです。

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