生産者たちのやりがいを高め、優れた食材をこだわりの料理人に届ける新しい流通サービス「SEND」を提供しているプラネット・テーブル(東京・渋谷)。独自の需要予測に基づいた発注管理で食材ロスを抑えている。生産者にできるだけ早く食材の代金を振り込むサービス「FarmPay」も利用者が増えているという。創業者、菊池紳氏は何を目指しているのか。ビジョンを聞いた。

生産者と料理人をつなぐ食材流通サービス「SEND」では、食材需要予測の精度を高めることで適切な発注管理をし、食材廃棄を極力抑えているとのことですが、そのほかSENDで力を入れていることはありますか。

菊池:食材をデリバリーできるエリアを広げていきます。今のところ、対応できるエリアは東京の、おおむね環状7号線以内(都心から半径約8km圏)の範囲に限られていますが、物流センターの移転に伴って配送エリアを拡大します。また、水産物の取り扱いも始めましたので、和食店や居酒屋のお届け先も増やしていきたいと考えています。

 SENDでは「いつも色と形と大きさをそろえて、同じものを最安値で持ってこい」というチェーン店のような需要者は対象外です。このような需要者に必要な流通もありますが、私たちは、私たちの考えや産地の事情を理解してくれる需要者と生産者をつなぎます。

 SENDを新規で利用したいという外食店の多くは既に利用されているお店からの紹介で、私たちの思いをよくくんでくれています。

独自の需要予測に基づいて自社で食材を仕入れておく。料理人から注文が入ると、SENDの物流センターで食材を集めて、そこから直接料理人に届ける
独自の需要予測に基づいて自社で食材を仕入れておく。料理人から注文が入ると、SENDの物流センターで食材を集めて、そこから直接料理人に届ける

産地側のファースト・ワン・マイルも再構築

 SENDに参加する生産者も紹介で増えています。農家はIT(情報技術)と縁遠いアナログな仕事という印象がありますが、実際には生産者同士がスマートフォンを使ってSNS(交流サイト)でつながっています。

 例えば「パプリカの生産者を探しています」と尋ねると、誰かが優れた生産者を紹介してくれます。紹介者から見て、手を抜いているように見えるとか、生産者として尊敬できないような人は紹介してきません。

 またお届け先までのラスト・ワン・マイルだけでなく、産地側のファースト・ワン・マイル、地域の物流の再構築も始めています。農業が衰退した理由の一つに、地域の物流の弱体化があります。ものはあるのに送れない、送ると送料が高くつくといったケースが多いのです。主要な産地に集荷ポイントを造り、そこで量をまとめて送り出すことができれば送料は下げられます。

需要予測をして適切な発注と仕入れをしているほかに、既存の食材取引、特に外食店が使っているプラットフォームとの違いはあるのでしょうか。

菊池:私たちは“生産者の顔が見える”ことを大切にしていますが、これを実現しているプラットフォームも多いと思います。ただ、私たちは生産者の所得向上とモチベーションのアップを第一に考えていて、そこが違うと思っています。

 既にフリーマーケットアプリや食材EC(電子商取引)サイトなどで、生産者が顔を出し、直接、誰かと取引ができるようになっています。料理人が産地へ行く、生産者が消費地へ来るといったことも増えています。顔が見えないと気持ち悪いというところまで来ているのではないでしょうか。

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