ユーザー数約60万人の駐車場シェアリングアプリを提供するakippaは、元々プロサッカー選手を目指していた金谷元気氏が興した会社。アスリートやコーチ経験を経て、世の中を知るための就職の後、「とにかく会社を作って大きくしたい」という思いで立ち上げたという。金谷氏には、駐車場のシェア以外のシェアリングエコノミーについての考えも聞いた。
空いている駐車場を持っている駐車場オーナーに、「お客を連れてきます」と営業を始めた後、順調に駐車場を増やしています。今後はどのくらいまで駐車場数を増やすか、計画はありますか。
金谷:現在の1万6000カ所を、2020年には10万カ所にすることが目標です。公営住宅やレンタカー会社などにも声を掛けています。
登録駐車場拠点数(累計)
駐車場の拠点数はサービス開始4年目で10倍になった。登録ユーザー数は、同じく約1万人から約60万人に増えている
ところで金谷さんは2009年2月に起業されていますが、もともとはプロのサッカー選手を目指していたそうですね。
金谷:Jリーグ開幕の前年、小学2年生の時にサッカーを始めました。先行して始まっていたナビスコカップに刺激されて本気になったのです。
『キャプテン翼』も読んでいました。ジュニアユースの世界大会で優勝した翼君が、スピーチをするシーンが印象に残っています。翼君は、まだ日本チームはワールドカップに出場したことがないけれど、自分たちはワールドカップ優勝を目指すと宣言するのです。
これをうのみにしたんですね。夢を追うのは自由なんだと。世界一のサッカー選手になるという夢を抱き、七夕の短冊にも毎年、そういったことを書いていました。
プレーよりもマネジメントが向いている?
最終的な夢は、中学、高校に入っても変わらなかったのですが、高校生の頃には、その夢から逆算し、少し弱いチームを強くして全国大会に出場するというのも面白いなと考えるようになっていました。
高校2年からキャプテンで、3年生になったときには顧問の先生が他の学校へ異動してしまったので、練習メニューを組んだり、練習試合をセットしたりするようになりました。個人としても大阪選抜候補に選ばれるようにはなったのですが、自分はもしかすると、プレーヤーよりもマネジメントのほうが向いているのかなと思うこともありました。
高校卒業後は、社会人クラブチームなどで構成されている関西サッカーリーグでのプレーもしながら、プロチームの練習に参加したり、府立高校のサッカー部などでコーチをするようになりました。4年間頑張っていました。
高校での指導では、生徒に、何を目標にサッカーをするのか、勝つことなのか、質の高いプレーをすることなのかなどを決めさせて、そのためのトレーニングや戦略を考えたりしていました。
プレーデータも活用しました。高校生のサッカーでは、データはほとんど使われていません。そこで、ほかのチームをビデオで撮って、どのエリアでのプレーが多いかなどを分析し、どの選手をマークすれば起点を潰せるかなどを考えていました。
その後、金谷さんはサッカー選手にはならず、一般企業に就職をすることになります。
金谷:結局プロチームから正式な採用の声は掛からず引退を決めました。この後どうするか、というときに起業しようと思ったんです。
とは言っても、サッカーばかりやっていましたから世間のことを全く知りませんので、世間を学んでから起業しようと思い、まずは就職することにしました。
就職は勉強が目的ですので、研修の評判がいい会社を探したんです。ある情報機器の販売を手掛ける会社が、新しく茨城県つくば市に研修施設をつくり、大手通信会社で研修を担当していた人がそこの研修長に就任していることを知りました。
大手通信会社に入ることは簡単ではありませんが、この会社に入れば大企業でやっているような研修が受けられるはずです。そう思って飛び込みのような形で入社し、入社から2カ月間研修を受け、その後も昇進などをするたびに研修を受けることができました。名刺の渡し方から法律まで、いろいろなことを学べました。
マネジャーになって退社し資本金5万円で起業
この会社は、私がマネジャーになったときが辞め時だな、と考えていましたので、予定通り昇進したときに退社し、資本金5万円で起業しました。もし、私が勉強を頑張って大学を出て大企業に入っていたら、この決断はしていなかったと思います。この会社にも運良く入った自分としては、守るものはありませんでした。
起業して、どのような仕事をされようとしていたのですか。
金谷:それが起業と言っても、会社をつくって悪いことをせずに大きくしよう、ということぐらいしか考えていなかったんです。
仕事も、前の勤め先でしていた法人営業しかできることはないなと思い、これから法人で置き換えが進む商品は何かと考え、携帯電話を扱ったのです。そんなスタートでしたが、この事業はすぐに大きくなり、1年で社員が4人、アルバイトが5人となり、2011年には20人ぐらいの規模になりました。
そこから、「“なくてはならぬ”をつくる」方向へと舵を切っていくのですね。スポーツ、そしてコーチの経験は経営に生きていますか。
金谷:スポーツ選手は勘で動いているように見えるかもしれませんが、先ほども言いましたように、実は結構、準備をしています。
サッカー選手だった頃も、テクニックがそれほどあったわけではなく、いろいろなシーンを組み合わせて考えた結果、ここにポジションを取っていれば得点できると決めてプレーすると、いわゆる“ごっつぁんゴール”を決められます。感覚にプラスしてデータがあるから、最後のおいしいところだけを持っていけるのです。勘の背景には、膨大なデータがあるのだと思っています。
プロのサッカープレーヤーになることを夢見ながら、非常勤講師として高校のサッカー部のコーチを務めていたときもあった。前列中央が金谷氏
今後、駐車場ビジネスだけでなく、新たな展開はあるのでしょうか。
金谷:現在、akippaのユーザーは60万人ほどいるのですが、その8割近くが自分のクルマを持っています。ですが、いつでもそのクルマに乗っているわけではないどころか、駐車場に停めたままになっている時間のほうが長いという人が大半でしょう。
このクルマをシェアできないかと考えています。当社もクルマを提供します。将来、自動運転が本格化するようなことになれば、過疎地で暮らす高齢者もクルマをシェアして、買い物などに出掛けてほしいと思っています。
シンギュラリティー(技術的特異点。特にAI〈人工知能〉が人間の知能を超えて人間社会に計り知れない変化をもたらす時点)が到来すると、人が外へ出掛けなくても暮らしが完結する可能性はあります。ですが、人がどこかへ出掛け、そこで人と会うことに価値はありますし、これ以上のコミュニケーションはないと思っています。
「移動」というプラットフォームは今後も有望です。人は、長い歴史の中で多様な「移動の文化」をつくり上げてきました。私たちはその継承に多少でも貢献できれば、と思っています。
シェアで解決できる困りごとはほかにもある
シェアリングエコノミーは今後も拡大していくでしょうか。既存の事業への影響はどうでしょう。
金谷:どんなものでもシェアはできます。インターネットを介して余っているものを有効活用する方法は、私たちのような素人集団でも提供できましたので、これから伸びていくと思います。
シェアリングエコノミーの従来型ビジネスへの影響ですが、カーシェアリングについて言えば、放っておいたクルマの1台当たりの利用率が高まりますので、クルマの総数は減りそうにも思えます。
ですが、これまでクルマを使っていなかった人が頻繁に使うようになる可能性も高い。クルマをシェアするオーナーから見れば、クルマが稼いでくれますので、経済的にクルマを買いやすくなるという影響もあるでしょう。新しい形のクルマ市場ができるのではないでしょうか。
民泊が既存の宿泊業を圧迫するという話も出ていますが、民泊と例えば旅館は異なるサービスですよね。競争はいつでもどこにでもあります。お互いそこはお客様に選ばれるサービスを追求していくしかないと思います。
私たちの手掛けている移動以外にも、何かをシェアすることで解決できる人々の困りごとはたくさんあるはずです。もし、世の中の困りごとを解決するために、私たちのプラットフォームで貢献できることがあれば、ぜひ一緒にやらせていただければと思っています。私たちは発展途上の会社ですので、可能性があるのなら、ぜひこちらから提携などをお願いしたいところです。
かなや・げんき
1984年生まれ。akippa社長。大阪府立松原高校卒業後4年間、Jリーガーを目指し関西サッカーリーグなどでプレー。引退後、上場企業にて2年間営業を経験し、2009年に24歳で1人暮らしをしていたワンルームの部屋で起業、ギャラクシーエージェンシーを設立。契約されていない月決め駐車場や、マンションの駐車場などを15分単位で貸し借りできる駐車場シェアアプリ「akippa」を14年に開始。15年に社名もakippaに変更。今までに総額16億円以上の資金を調達した。趣味は、読書と「ももクロ」のライブに行くこと。(写真:山本祐之)
(この項終わり。構成:片瀬京子、編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ)
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