大崎くんの注文が細かくてね。「ここがつる」とか、「ちょっとかかとがきついです」とか好き放題言うの。途中で「あんなことを言わなければよかった。そしたらこんな苦労をせずに済んだのに」と思ったくらい。発売までに2年ぐらいかかったのと違うかな。四苦八苦しましたよ。でも最終的には大崎くんも納得してくれるものができたんです。

ランニング用ソックス「レーシングランエアー5本指」。マラソンランナーの意見を反映し、約2年をかけて開発したモデルの最新版
ランニング用ソックス「レーシングランエアー5本指」。マラソンランナーの意見を反映し、約2年をかけて開発したモデルの最新版

大崎さんの声を反映させて完成したんですね。

越智:もともと人の意見は素直に聞く方。タビオが婦人物靴下のトップブランドになれたのもそのおかげです。

 僕はとにかく仕入れ担当や小売店の販売員の女の子の言うことを二つ返事で聞きました。「こんな商品を作りました」と見せるでしょう。すると、「越智さん、ここはこういうふうに変えた方がいいよ」と言ってくれます。僕は「はい、分かりました」とその足で工場に行き、頼み込んでサンプルを作ってもらう。そして次の日にそれを店まで持っていく。猛スピードですわ。

商売は、人の力を使わなかったら何もできない

よく素直に先方の声に耳を傾けられましたね。変にこだわったり、プライドを持ったりするのではなく。

越智:「向こうがいいというものはきっと売れるんだろう」と思っていました。僕は大阪の靴下問屋で丁稚をしていた時代から紳士物育ちだからね。紳士物だったら二言も、三言もあった。紳士物だったら、「越智さん、こうよ」と言われても、「ちょっとそれはおかしいのと違いますか」とか抵抗したかも分からん。

 でも僕はファッションに興味も自信もないし、持論がないから。着るものなんて全く気にしたことがない。ましてや婦人物は何も分からない。ファッション音痴の僕が婦人物をやるのかとみんなに笑われたくらいです。

 だから相手の言うことを聞くのは何ともなかった。白だと思っていたものを黒と言われても、「はい、分かりました」と言ってその通りにする。そのうち向こうはいつの間にやら、勝手に企画を考えていますのや。「こんな商品を作ったら売れるよ」「来年の春はこんなものを作ったらいいと思うよ」とか。それでまた言う通りに作る。

 そんなことを繰り返していたら、いつの間にか、うちが婦人物靴下のトップになっていたんです。やっぱり商売というのは人の力を使わなかったら、何もできませんな。

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