本記事は2017年4月25日に「日経ビジネスオンライン」の「トップリーダーかく語りき」に掲載されたものです。タビオ会長の越智直正氏が2022年1月6日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
靴下問屋での丁稚奉公からスタートし、靴下専門店の全国チェーン「靴下屋」を一代で築いた創業者。国産の質の良い靴下にこだわり、今でも商品開発に尋常ならざる熱情を注ぐ。「人の意見を聞く」「人の力を借りる」といった素直な心が成功につながったと振り返る。(前編はこちらからご覧いただけます)
二宮尊徳の言葉を創業理念としているそうですね。
越智:そうです。「凡そ、商品は造って喜び、売って喜び、買って喜ぶようにすべし。造って喜び、売って喜び、買って喜ばざるは、道に叶わず」──。二宮尊徳が遺したこの言葉を理念に据えました。実は「造って喜び」という部分は尊徳の原文にはありません。僕が勝手に加えました。
「造って喜び」とは、とことんこだわっていいものを作るという意味です。お客様が求めるものは何かと全力で考え、脇目も振らず一途にいいものを作ってきました。昔読んだ本にね、できるだけいい商品を、できるだけ安く、できるだけたくさんの人に提供するのが商売人の務め、という教えがありましてん。

「靴下をなめているんか。作ってやろうやないか」
お客様に「こんな靴下が欲しい」と求められれば作る。ランニング用ソックスを作ることになったのも、そんなきっかけだったとか。
越智:あるとき、うちにNTT西日本の大崎悟史くん(現・山梨学院大学陸上競技部長距離コーチ)という子が営業に来ましてん。「僕は陸上競技部でマラソンの選手をしています」と言うの。「そうですか」と話を聞いていたら、「靴はいろいろ研究していますけど、靴下がもう一つあかんのです」と言い出しましてね。
僕は靴下がバカにされているような気がしたの。「靴下をなめているんか。どんなものでも作ってやろうやないか」と担当者を1人つけて、受けて立ったんです。それから引くに引けないようになった。
長い距離を走っていると、土踏まずが下がってきて、疲れるんやって。それに靴の中で足があそんでマメができるのやと。じゃあそれを改善する靴下にしようと、大崎くんの声を聞いて作っていったんです。
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