それにしても、考え方を変えただけで倒産の危機を乗り切るとは。

(写真:水野浩志)
(写真:水野浩志)

越智:世の中は考え方だけ。考え方を変えれば行動も変わる、運すらも変わると今の僕は思っています。
 中国で生まれた陰陽思想というのがあります。世の中のすべてのものは陰と陽の50%、50%で成り立っているという考え方です。人間はいい方から見たら全部よく見えます。悪い方から見たら全部悪く見える。考え方一つです。

 陰気な人と陽気な人との違いは考え方にあります。陽気な人はいい方から見て、陰気な人というのは悪い方から見ます。見る位置を変えたらどんなことにだっていい面があります。

 最悪という場合だって必ずいいことがあるんですよ。ここで、いいことに気が付く人間になろうと努力すると、必ず道は開ける。闇を貫く光はあれど、光を貫く闇はありません。

会社を倒産させてしまう人と、倒産せずに頑張れる人では何が違うのでしょうか。

越智:それもやはり考え方だと僕は思います。志と言い換えてもいい。人間はこうなりたいと思わないと、そうはなれません。こうなりたい、どうしてもなりたいと思うと、じゃあどうすればいいのか、いろいろな知恵が出てくる。知恵が出てくれば努力もしたくなる。

分不相応な目標でも、そうなれますか。

越智:いや、人間は自分の可能性を無意識に把握できるんですわ。どう転んでもできないことを本気で願うことはできませんのや。逆に言うと、「そうなりたい」と本気で思えるのなら、それはそうなれる可能性があるということです。

「夢」が「理想」になり、「理想」が「志」に変わる

 松下幸之助の「ダム式経営」で有名な話がありますな。ダム式経営とは資金、人材、技術などのダムをつくり、余裕のある経営をしていこうというものです。

 経営者を対象にしたある講演会で幸之助がその話をしたとき、聴衆の1人が「そうしたいのはやまやまだが、できないから困っている。どうしたらダム式経営ができるのか」と質問した。「それはそうなりたいと強く思うことです」と幸之助が答えたら、みんな笑った。その中でたった1人、この言葉の真意に気づき奮起したのが、稲盛和夫という人なんですね。

簡単なようで、難しいことですよね。

越智:「こうなればいいなあ」などと思っている間は、「思う」うちに入りません。それは単なる夢です。こういうふうになりたいと本気で思ったら、その夢をどうしたら実現できるかというプロセスを考える。それができれば「夢」は「理想」になります。

 「理想」が出来上がり、やろうと決めたら、今度は「理想」が「志」になります。「志なき者は、魂なき虫に同じ」。これは幕末の志士、橋本左内が『啓発録』に記した言葉です。「夢」だけではあかんのです。

後編に続く)

(構成:荻島央江、編集:日経トップリーダー

靴下専門店の全国チェーン「靴下屋」を一代で築いたタビオ創業者、越智直正氏の人生訓。15歳で丁稚奉公を始めてから60年、国産靴下に懸ける尋常ならざる熱情を語り、経営の王道を説く。『靴下バカ一代』は好評販売中です。詳しくはこちらから。

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