「監督になった当初、指導実績のない私に対する学生たちの信頼はゼロ。部員の間からは練習に対するやる気も感じられなかった」
青山学院大学陸上競技部の監督に就任した2004年のことを、原晋監督はこう振り返る。そこからチームを作り直し、5年後に33年ぶりの箱根駅伝出場を遂げると、以降10位以内を維持。ついに15年、16年と連続で優勝を飾った。
勝利の裏側には、原監督自身が企業に勤めた10年間の経験のなかで、人やチームの育て方を体得していたことがあった。若手社員の育成に悩む経営者にそのポイントを5つに整理して解説する。
ポイント1 半歩先の目標を設定する

毎月、全部員が実行しているのは、A4の紙にひと月の目標と練習方法を書き出すことだ。設定するのは手の届かない目標ではなく、必ず達成できる「半歩先」のゴールである。どんなに小さなことでも、成し遂げた自信は次へのモチベーションにつながっていく。そのためあえてハードルを低くし、現実的なラインを決めさせる。「年に12回、目標を達成する度に、毎月選手たちのテンションはどんどん上がっていく。こうした精神的な栄養剤が選手たちには欠かせない」と原監督は語る。
各自の目標が決まると、5~6人でミーティングを開く。ここでは、毎回メンバーを替え、違う顔ぶれに向けて話をすることに意味がある。タイムの速い選手、遅い選手が学年を超えて互いの立場を理解し、目標や練習方法を共有する。選手がアドバイスし合うことで自ずとチームに一体感が生まれていく。また自分の目標を自分で深く考え、客観的に見直し、人に教えることは、個々の成長につながる。
この目標管理シートは、食堂に通じる壁に貼り出される。目標や行動計画を常に見えるようにするのは、原監督が営業マンだった時代に上司が実践していた方法。全員に公開し、毎日目にすることで、達成への意欲が高まる。
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