この2月には知財の活用法を解説した『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(共著)を出版されましたね。この中で知財のセオリー・活用法を分かりやすく解説していますが、「特許なんか取っても意味はない」と言う中小企業の経営者もいらっしゃいます。

小説、テレビドラマともにヒットした『下町ロケット』。様々な関連商品も生まれた
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鮫島:特許を単なるビジネスを独占する手段と考えると、確かにそんなに簡単な話ではありません。もしも独占しようとしたら、かなり完璧な特許を取らなければいけませんし、権利行使のための費用も相当に必要です。そこまでしても、今度は業界から総スカンを食らってしまうようなリスクもありますので、そう考えると「特許なんて意味がない」とおっしゃる経営者がいるのも分かります。

特許にはいろいろな使い方がある

 しかし、特許はもっといろいろな使い方ができます。自分たちが開発した成果を「きちんと特許という形で資産化していますよ」というアピールにもなるし、会社の経営効率、あるいは経営の意識がしっかりしている証明にもなります。

 加えて昨今では、資金調達の面でも特許が重要性を増しています。金融機関やベンチャーキャピタルの間で特許に関する意識が非常に高まってきて、特許権をきちんと取得していない企業にはなかなか投資しにくい、という声も上がり始めているからです。

 実は私、04年に特許庁が設置した「地域中小企業知的財産戦略支援事業統括委員会」の委員長をしていまして、先ほど申し上げたような特許の意味を浸透させる仕事を長年してきました。その成果が10年ぐらいからようやく出始めてきた、という実感を持っています。

知財部門もアウトソースする時代へ

特許というと、かつてはその技術に対する社長の思いがまずある感じでしたが、そうではなくて、資金調達を含む戦略的判断が絡んでくるようになった、ということでしょうか。

鮫島:そうです。例えば、技術があって特許を取ることも可能な会社があったとしましょう。しかし、特許出願に1件当たり30万円くらいかかると仮にしますと、経営者としてはそれでどんなリターンが得られるのか、ということを当然、考えますよね?

 具体的には先ほど申し上げたようにいろいろなリターンが考えられるわけですが、それをお金に換算するのはなかなか難しいんです。30万円の投資でリターンが得られるならやる、と決断するか、いや、高すぎると思うか、それは経営者の判断にもよりますが、いずれにせよリターンに関する正確な情報がないと判断できません。

 実は、我々の事務所で手がけているビジネスモデルの1つは経営者にこの判断材料を提供することなんです。

 中小企業に必要な知財部的機能のアウトソーシングを請け負うことができるのが私どもの大きな特徴で、会社の技術と特許を深く理解して、その上でアウトソース法務部をやっている業態は我々だけだと自負しています。

公認会計士や弁理士と同じように、知財もアウトソースすればいいんじゃないかという考え方ですね。

鮫島:ですから、我々は特許事務所と連携はしますが、自分たちで特許出願を手がけることはしません。自分たちで特許を出しておいて、それをチェックするのはおかしな話になってしまいますから。

 知的財産権と言われているものは大きく4つ、特許権・意匠権・商標権・著作権とあります。ソフトウエア開発会社の場合であれば、当然、著作権の管理をどうするのかが重要になってきますし、モノづくりの会社であれば、技術と同時に意匠の特許も出しておくか、とか、業態によって重きを置く事項が異なります。

 昨年から音や色などの商標登録ができるようになり、今は非常にバリエーションが広がっている状態ですが、中小企業の場合は限られたコストの中でやっていかなければいけませんから、どこに重点を置いて出願するかの判断は重要です。

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